兄の物語[3]新顔ではあるが

「それじゃ、ギルドに行こうか」


ドーウルスまでの旅で溜まった疲れを癒した翌日、クライレットたちは早速ギルドへと向かう。


「今日はどんな依頼を受けるの?」


「……個人的には、ドーウルスに来たばかりだから、採集系の依頼を受けても良いと思ってる」


ドーウルス周辺の森に関してはある程度情報を得ているものの、情報は情報でしかない。


実際にその場に行かなければ得られない事実があることを考えると、初日から討伐依頼を受けるのはあまり得策ではないと判断。


「ふ~~~ん、別に良いんじゃねぇか?」


「あら、バルガスにしては珍しいじゃない。てっきり討伐依頼を受けたいって言いだすかと思ったわ」


「だってよ、結局森に入ればモンスターと遭遇するだろ」


バルガスの言う通り、森に入れば……全くモンスターと遭遇しないということは殆どない。


「ドーウルス周辺の森って考えれば、絶対に俺らが楽しめる奴が現れるだろ」


「……ちょっとはまともな思考になったのかと思ったけど、やっぱりバルガスはバルガスね」


「はっはっは!! 褒めたって何も奢らねぇぞ」


「褒めてないわよ、バカ虎」


朝から明るい雰囲気であり、すれ違う住民たちは……クライレットたちの事を知らないが、粗野で乱暴なタイプとは全く違うタイプだと感じ、自然と警戒心を解き……ギルドに到着する前、露店の店主の一人が四人に声を掛けた。


「どうだい、冒険に行く前に一本食ってかないか?」


店主の言葉に、朝……しっかりと朝食を食べていた筈のバルガスが食いついた。

そして一本どころか三本の串焼きを購入。


クライレットもその良い匂いに釣られ、一本購入。


「毎度! 頑張れよ!!」


ペトラとしてはせめて帰ってからにしなさいよとツッコミたいところではあるものの……これから数か月はドーウルスで活動しようと決めていることもあり、住民たちと仲良くなっておいて損はない。


そういった事が考えられない程バカではない。


「んじゃ、入ろうぜ」


串焼きを食べ終え、冒険者ギルドに到着したクライレットたちは臆することなく中へ足を踏み入れた。


(っ……これまで活動してきた冒険者ギルドでも、一定の濃さがあるけど……ここは、強さの匂いが深いね)


とても抽象的な感覚ではあるが、要は平均的な冒険者のレベルが高いと察した。


「っし……良い依頼を取ってくるぜ!!!!」


時間的にまだそれなりに早い時間ではあるが、既にクエストボードの前には何人もの冒険者たちが依頼を眺め……中には奪い合っている者もいた。


「バルガスって、こういう時は本当に役立つわよね」


「ちょっと申し訳ないって思うけど……なんだかんだで楽しんでるよね、あれ」


他の冒険者たちをかき分け、狙いの依頼書をライバルよりも先に取る。


「これだな!!!!」


「あっ!!」


バルガスがとある依頼書を取った瞬間、一人の冒険者が声を上げた。


声の主はバルガス取った依頼書か、別に依頼書を受けるか否かを悩んでいた。


「クライレット、これでどうだ!!」


しかし、バルガスは大して離れてない距離から出た声に気付いてないのか、一切反応することなく依頼書をクライレットたちの元に持ってきた。


「……うん、良さそうだね」


バルガスが持ってきた依頼は……本人の欲を叶える戦闘系の依頼ではなく、ちゃんと事前に話し合っていた通り、採集系の依頼。


ただし……採集対象である果実を好む魔物がいるため、三割ほどバルガスの戦闘欲が叶う依頼でもあった。


「…………バルガスのくせに頭を使ったわね」


「なっはっは!!! 俺もまだまだ成長期ってことだな!!」


意気揚々と依頼書をカウンターの方に持っていく四人を睨む一組のパーティー。


数か月前からドーウルスで活動している冒険者たちであるため、自分たちが悩んでいた依頼の一つを颯爽と取っていた者たちの顔を知らず、即座に新参者であると把握。


一言ぐらい文句言いたいくなったが……依頼を取った虎人。

虎人を待っていたパーティーメンバーであろう人族とエルフ、ハーフドワーフが身に付ける装備は、明らかに自分たちよりも上。


簡単に言ってしまうと、彼らはクライレットたちにビビり、睨むという抵抗だけしか行えなかった。

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