兄の物語[1]話が解かると助かる

SIDE クライレット


「ここが、ドーウルスか」


ゼルートの兄であり、ゲインルート家の長男であるクライレットはパーティーメンバーである仲間と共に辺境の街、ドーウルスへと訪れていた。


「辺境って呼ばれてるけど、外から見ても中々栄えてるよな」


「それだけ周辺の森に生息している魔物のレベルが高いってことだね」


「腕を上げる場所としては最適でしょう」


虎人族のバルガスに人族とドワーフのハーフであるフローラ。

そしてエルフであるペトラの四人組パーティーと、全員種族は違うものの、非常にバランスの取れている。

全員がCランクに昇格しているという事もあり、将来有望なパーティーの一つとして認識されている。


「……毎度思うんだけどよ、普通の列に並ばなくても良いんじゃないか?」


「バカね。もう少し考えて発言しなさいよ。確かに時間は有限だけど、そうした批判を買うような行動をすれば、今後の活動に支障が出るでしょ」


クライレットは元々男爵家出身の長男であり……今では父親であるガレンが先日の戦争で活躍したこと、これまでの功績や街の発展もあり、子爵を飛び越えて一気に伯爵へと大出世。


これにより、クライレットも男爵家の長男ではなく伯爵家の長男と……貴族界隈から見て大きな出世、力を得る結果となった。

ただ……貴族界隈、冒険者界隈からすれば伯爵家の令息……というよりも、あのゼルートの兄であるという事の方が注目される大きな要因となっている。


「うっせ、バカで悪かったな」


「バルガスはそういう事を直ぐ忘れるからね~~。また別の街でも同じやり取りをしそうだね~~。クライレットもそう思わない?」


「はは、そうだな……うん、バルガスには悪いけど否定出来ないかな」


「ぅおい! そこは嘘でも否定してくれよ親友!!!!」


バカなやり取りをしながら身分証を呈示。


「ッ!!! ……っと、申し訳ありません。少し驚いてしまって」


「いえいえ」


クライレットのギルドカードを見た瞬間、確認を行った門兵は数秒の間ではあるが驚き固まった。


ゼルートが冒険者になる為に、最初の活動地に選んだのがドーウルス。

冒険者になって半年も経たないうちに鮮烈な功績を打ち立てたこともあり、ドーウルスの戦闘職に関わる人間であれば殆どの者がゼルートとの事を知っていた。


そんなゼルートの家族……兄である人物が目の前にいるとなれば、驚くのも無理はなく……自然とテンションが上がってしまう。


だが、そういった変な意味で騒がれたくないクライレットは普段と変わらない……しかし、謎の圧を含む眼で訴えかけた。

その結果門兵の男はその訴えを上手く読み取り、下手に騒ぐことなく確認を終えて中へ通した。


「話が解かる方で助かりましたわね」


「偶に変に騒がれるからね~~」


残念ながら、これまでクライレットの身分証を確認してきた者たち全員が眼で訴えかける意図を察することが出来ず、下手に目立ってしまうことがあった。


「……ぶっちゃけ、クライレットは強ぇんだし、騒がれてもそれが普通って思っちまうけどな」


同じ接近戦タイプとして自身の戦闘力に自信を持っているバルガスだが、現時点ではまだクライレットに及ばないと自覚し……その事実を認めている。


「それに関しては私も同じ意見です。しかし、人間はそう簡単に他人の心の内まで読むことは出来ず、勝手に騒いでしまうものです」


「悪気はないんだろうけど……悪気がないってのもまたねぇ~~~~」


既にクライレット共にパーティーを組んで活動を始め、早数年。


元々Aランク冒険者の、男爵家の令息という事もあって冒険者として活動し始めた当初から本人の意思関係無く注目されていた。

しかし、約一年ほど前から弟であるゼルートが冒険者として活動を始めたことで……更に注目されることとなった。


注目されることは冒険者として悪いことではないが……愚か者ほど、噛みつけそうな相手にしか嚙みつかない。


「ふふ、その話はいくら会話を重ねても意味がない。とりあえず、今は泊れる宿を探そう」


だが、この男にとって……家族のそういった話は、己の誇りでしかなかった。

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