少年期[1001]親切心で忠告
ゼルートは今後の目的を両親に伝えると、ガレンとレミアは良い意味で大爆笑。
ゼルートならその過去を、伝説を確かめられると本気で思っており、馬鹿な真似はよせと止めることはなかった。
妹のセラルは……後少しでまた兄と離れることになるのを寂しがるも、伝説を確かめに行く兄に輝きの眼を向けていた。
(……兄さんと姉さんに、そろそろ一回帰ってきたらどう? って連絡しておくか)
そしてゼルートは今後の冒険内容を……自国の国王陛下に手紙で伝えた。
一冒険者が国王に手紙を送ったところで、国王本人が手紙を読むことはない。
そもそも城で働く関係者がしっかりと中身を読むかどうかすら怪しい。
しかし、ゼルートは男爵の爵位を持つ冒険者であり、加えて普通の男爵ではない。
冒険者ギルドを経由して届けられた手紙は、即座に国王の元へ届けられた。
「陛下、アドレイブ男爵からのお手紙です」
「ほぅ……ゼルートからの手紙、か」
ゼルートが悪人でないことなど、もう十分解っている。
強大な力を持ちながらも……本人は歳相応の幼さを持っている。
ただ、身内を守る為であればその力を振るうことを躊躇わない……そんな純粋な心を持っていることも知っている。
個人的にはゼルートとの会話は楽しみに思う部分があるが、手紙が送られてきたという事は……何かしらの報告。
(もしや、ディスタール王国以外の国がゼルートに何かけしかけたか?)
友人知人、家族に危害を加えようものなら、ゼルート達とその国での戦争が始まってしまうかもしれない。
その許可が欲しいという内容の手紙かもしれないと思いながら封を開け、読み始める。
「……ふむ…………ふむ。はっはっは、そうか…………やはり、こういう部分はまだ十五になっていないのに、しっかりしているのだな」
「……手紙に、何が記されているのかお聞きしてもよろしいでしょうか」
「ゼルートは後十日ほど休日を楽しみ、その後はパルブン王国へ向かう様だ」
「パルブン王国に、ですか」
書類仕事を手伝う事務官は、何故ゼルートがパルブン王国へ向かうのか……答えを聞かずに考え込んだ。
「…………もしや、あの伝説の大魔導士の杖を求めて、なのですか?」
「ふふ、その通りだ。良く解ったな」
「アドレイブ男爵たちの武勇伝は全てお聞きしています。その全てが事実であるため、冒険者として……そういった冒険をするのも彼らであれば、無茶や無謀に入らないと思いまして」
「であろうな。他国へ向かう、だからわざわざ手紙を送ってくれたのだ。さて……今のうちに、一筆書いておくとしよう」
まだ別の仕事が残っているものの、事務官たちは止めなかった。
何故なら……彼等も話を耳にした形ではあるが、ゼルートがどれだけぶっ飛んだ性格をしているのか知っているため。
他国に向かった先でも、彼であれば問答無用で問題を起こす未来が見える。
勿論、ゼルート側が原因問題を起こすとは思っていない。
ただ……問題が降りかかってきた場合、完全に引き下がるタイプではない。
そのため、まずパルブン王国の権力者たちがゼルートに手を出さないようにする必要がある。
根回し……という程のあれでもないが、キッチリ忠告しておかなければ、余計な犠牲が出てもおかしくない。
言わば、親切心で出す手紙。
(しかし……本当に、あの伝説の大魔導士の杖が地中深く? から見つかった場合……パルブン王国はどう出るのだろうか?)
事務官は貴族が絵画や有名職人が造った家具や食器などをコレクションするのと同じく、冒険者たちも武器やマジックアイテムを同じように集めるところがあるのを知っている。
ゼルートにもそういう部分があるとチラッと聞いたことがあるため、本当に伝説の杖を手に入れた場合……どれだけ金積まれても売らないのは目に見えていた。
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