少年期[1000]それも冒険だろ
「……どうしよっかな~~」
「ゼルート様、何かお悩みですか?」
訓練の休憩中、地面に腰を下ろして悩むゼルートに一人の騎士が声を掛けた。
「もう実家に帰って来た一か月以上経つじゃないですか。そろそろ次はどんな冒険をしようか考えようと思って……とりあえず、今のところ一個浮かんでるんですけど、それ以外の案が浮かんでこなくて」
「なるほど。因みに、現在浮かんでいる案はどういった冒険なのですか?」
「以前、ホーリーパレスという名前のダンジョンを攻略してたんですけど、まだ完全に一番下の階層まで攻略されてないんですよ。なので、そこで完全攻略を行おうかと」
何十階層といった規模のダンジョンを、初めて一番下まで潜り……完全攻略を行う。
それを平然とした表情で目標の一つだと語るゼルートに、騎士は改めて一人の戦闘者として憧れが高まる。
「それはそれで楽しい冒険になると思うんですけど、それ以外は何かないかな~ってここ数日悩んでるんですよ」
「そうでしたか…………」
声を掛けた騎士は、ある程度ゼルートの冒険譚を耳にしているため、先日ゼルートたちが海に行ったことを知っている。
(ゼルート様にとって楽しい冒険となると……倒しても構わない強敵。もしくは新たなダンジョンなどでしょうか……まだそこまでそういう事に興味をお持ちではないことを考えると、その二つがメインとなりますね)
深く深く考え込み……一つ、騎士は昔耳にした話を思い出した。
「他国の……パルブン王国にて、歴史に名を刻んだ大魔導士の杖が地中深くに隠されている、という話を聞いたことがあります」
「パルブン王国って、確かディスタール王国とは逆の方向にある国ですよね……確か、エルフ族の森が多いとか」
「その通りです。その大魔導士は、エルフの盟友とも呼ばれていたそうです」
騎士から教えてもらった話は、ゼルートも過去に聞いたことがあり、騎士のお陰で明確に思い出した。
(お伽話に近い存在ではあるけど、その大魔導士は確かに文献に残っている……実在した人間。それを考えると……ふふ、行ってみる価値はあるな)
俄然、興味が湧いてきたゼルート。
仮にお伽話の様な存在が偽物であったとしても、海外に旅行へ行くのは異常に楽しみである。
「もう少し休暇を堪能したら、パルブン王国に行こうかと思う」
「パルブン王国、ねぇ……それはまたなんで?」
リーダーから次の目的地を聞き、特にそこは止めた方が良い、などとは言わない。
しかし、アレナはパルブン王国を次の冒険地にする理由が直ぐには解らなかった。
(あの国にも幾つかダンジョンはあったけど、ダンジョン探索をするならゼルート的にホーリーパレスのまだ未開拓部分を探索する方が楽しめそうだけど)
ルウナに関してはアレナの様に詳しい情報など殆ど知識にないため、ただオルディア王国以外で冒険をするということにワクワクが止まらなかった。
「あの国に、かつて大魔導士と呼ばれた人物が使っていた杖が眠ってるだろ」
「…………ぜ、ゼルート。もしかして、そのお伽話を信じてるの?」
「いや、そこまでがっつりは信じてない。文献には残ってるっぽいけど、まぁ…………本当にあるとしたら、一割ぐらい?」
「だったら、もっと他の事に……冒険者らしいことに時間を使った方が良いんじゃないの?」
アレナの言葉は、冒険者という職業に就く者の言葉として、決して間違っていない。
だが、ゼルートは……彼らしいセリフで反論した。
「何言ってんだ、アレナ。そういうお伽話とか、伝説? 的な存在を確かめようとするのも、冒険者らしい冒険だろ」
「…………ふふ、そうだったわね。全く、私もまだまだ頭が固いわね」
一般的な思考回路ではない。
しかし、ここ最近ハイレベルな鍛錬は行っていたものの、刺激的な実戦や冒険を行っていなかったからか……リーダーがどういった人物なのか、うっかり忘れていた。
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