少年期[999]いい加減、諦めてくれ
「………………」
「ゼルート、何そんな渋い顔をしてるの?」
「これだこれ」
「? ……ねぇ、ちょっと待って。これ、私が読んでも良いの?」
とある日の昼過ぎ頃、ゼルートのテーブルには複数の手紙が並んでいた。
「別に良いよ。どうせ断るんだし」
「そ、そぅ……それにしても、やっぱりゼルート自身が貴族になった影響は随分と大きいのね」
手紙の内容は……簡単に言うと、うちの娘を婚約者としてどうかね? といったもの。
ゼルートが幼い頃にもちょこちょこ来ていたが、冒険者としての活動を始めてからはパタッと止まっていた。
しかし……先日の戦争で敵兵、冒険者などを大量に殲滅し、常に最前線で戦い続け……敵の大将を捕えた。
その褒美として、男爵の地位を手に入れた。
そう、ゼルートは男爵家の令息でも、伯爵家の令息でもなく……男爵となった。
ゼルートの可能性を考えれば、そこで終わるとも思えない。
そのため、父親であるガレンの元には定期的に婚約関係の手紙が届いていた。
「……ゼルートは、戦後の祝勝会パーティーで、まだまだ婚約、結婚する気はないって宣言してたわよね?」
「そうだな。騎士団に入る気もないし、婚約して結婚する気もないって伝えた。けど、だからといってって話なんだろう。出し抜けるなら出し抜きたい……その精神がある意味貴族らしいけどさ」
一応全ての手紙に目を通していくものの、そもそも手紙でうちの娘がどれだけ良いのか……そこら辺を説明されたところで、ゼルートからすればだから何なんですか? という感情しか出てこない。
「ゼルートの事だから、一度くらい会ってみようとかどうせ思わないんでしょう?」
「当たり前だろ。BランクやAランクのモンスターを一人で倒せます、とかそういう情報があるなら興味湧くけどさ」
「それはゼルートだけじゃなくて、私も興味が湧くわね」
ゼルートの元へ送られてきている婚約関係の手紙で紹介されている令嬢は、基本的に同年代か歳下。
よっぽど特別ではない限り、狙っている令息より歳上の娘を紹介することはない。
「まっ、そんな令嬢がいるとは思えないから、結局婚約を考えてみることすらないんだけどな」
「ゼルートみたいな子供が何人もいたら、時代によっては他国を本気で侵略してたかもしれないわね」
「…………そうだな。嫌な世の中だが、絶対にあり得ないとは言えないな」
先日、オルディア王国とディスタール王国の戦争があったが、あれは権利を巡っての戦争。
死者は出たものの、かつての時代ほど激しいものではない。
「それにしても……冒険者の中でこんなにモテモテなのは、やっぱりゼルートだけね」
「これはモテてるとは言わないだろ。令嬢たちからの手紙じゃないんだ。貴族はそういうのだってのは解ってるけど、こういう部分はやっぱり好きになれないな」
「それ、ゼルートが言っても大丈夫なの?」
「実家だから問題無い。つか……俺としては、他国の家からもこういうのを出されると、本当に勘弁してほしいってなるな」
今のところ、冗談のつもりで口にしているゼルート。
しかし……国の中心人物たちの中には、ゼルートを他国の公爵令嬢や王女と結婚させた方が良いのではと、既に考えている者もいた。
現在の爵位は男爵であるが、ゼルートの英雄譚がここで終わるとは到底思えない。
とはいえ、王家がその案を却下していることもあり、現実となる可能性は限りなく低い。
ディスタール王国の中には関係修復の為にと、自身の娘を側室でも良いのでゼルートの嫁にと考える当主が決して少なくないが……本人からすれば、頼むから馬鹿な事を考えないでほしい。
「はぁ~~~、断りの手紙を書くのも一苦労だ」
既にゼルートが実家で休暇を過ごしているという話は広まっており、毎日ではないものの、結果的に意味のない手紙が幾つも届くことになる。
途中から国王陛下に頼んで、自分に婚約関係の手紙を出さないよう、貴族に向けて王命を出してくださいと頼もうか本気で悩んだが……ギリギリ残っていた理性が働き、バカな真似をせずに済んだ。
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