少年期[994]吐いた言葉は戻せない

(皆が……フィンザスたちが、目の前に居る!!!! なんで、どうして……)


頭の中は混乱し続けていた。


アレナの中で……フィンザスたちはもう会えない存在だと思っていた。

仮に出会える可能性があったとしても、今……そんな万が一が起こるとは全く予想していなかった。


何故、どうしてという言葉で頭が一杯になる。

ただ……そんな中、自然と足が動いた。


前に、前に行こうと足が動いた。

心の底では、もし会えたらという思いが全くなかったわけではない。


「アレナ…………」


同じく訓練を行っていたルウナは……本気でどうすれば良いのか解らなかった。


ゼルートから全く説明を聞いておらず、当事者でもないため詳しい事は解らない。

それでも……アレナがミスリルの壁をどけ、見知らぬ五人と手を合わせれば、自分たちとは離れる未来が見えてしまった。


(ぜ、ゼルートは止めないのか!?)


自分たちのリーダーがどういった男なのか知っている。

こういう時、普通は……普段なら止める。

そもそも五人をアレナと会わせなかったかもしれない。


ただ……自分たちを大切に思っていると同時に、自分たちの意思も大切にしてくれている事も知っている。

だからこそ、ルウナは下手に動けず、言葉も喉から出てこなかった。



(フィンザスたちの元へ行けば、また……皆で冒険できるって、いうことなの?)


一歩、また一歩とかつての仲間たちの元へ足が進む。


まだ状況が完全には飲み込めていない。

それでも……かつての仲間が、友人たちが目の前にいる。

その状況に涙は止まらず、これからの未来に……想いを馳せた瞬間、ピタリと足が止まった。


(わ、私は……何を、考えて)


またフィンザスたちと共にパーティーを組み、冒険者として活動する。

それは……紛れもなく、ゼルートとの決別を意味する。


また別の感情が、記憶が流れる……などの問題ではない。

アレナにとって、ゼルートという存在は紛れもなく命の恩人。


結局は奴隷として買われるのだから、死ぬことはない?

アレナはそういった用途の奴隷としてだけではなく、戦闘奴隷としても扱う事が出来た。

場合によっては死ぬことは珍しくなく……戦闘に駆り出されずとも、待っているのは生き地獄。

ゼルートに買われなければ、死よりも辛い地獄が待っていたと言っても過言ではない。


(駄目よ。そんな事……望んだら、駄目よ。まだ私は何も、何もゼルートに返せてないのよ!!)


ただ命を救われた……だけではない。

それからの人生、危機との遭遇こそあれど、どれも振り返れば心の底から楽しいと言える日々を送ることが出来た。

主人の……リーダーの行動に心配することは多々あったが、それでも心の底から怒ったことなどない。


ゼルートと出会ってからの日々に不満など一切ない。

一度終わったと思った……言わば二度目の人生としては、あまりにも恵まれ過ぎている。


アレナは断言する。

今自身の胸の内で起きている葛藤は、強迫観念からくるものではない。

少しでもゼルートに恩を感じているのであれば、当然の反応。


「あ、アレナ?」


当然歩みを止めて顔を伏せたかつての仲間。

数秒……数十秒だっても、アレナは顔を上げなかった。


「だ、大丈夫か! アレナ!!!」


無茶を頼んでいる側であると自覚しているからこそ、フィンザスはゼルートが自分たちの前を塞いだミスリルの線を越えようとはしない。


しかし、蒼天の翼の幾人かは、ゼルートがアレナとの間に何かしらの縛りを魔法で造ったのではないかと疑う。

ただ……こちらも疑うだけに留まり、直接文句を口にすることはなかった。


「…………ごめん、皆」


言葉にしてしまえば、もう飲み込むことは出来ない。

それは……かつての仲間との決別を意味する結果となる。


そんな事は解っている。

解っていても、アレナは悩み抜いた結果……選んだ道を伝えた。

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