少年期[993]子供らしい欲
(わざわざ俺の実家まで来たってことは、それだけアレナの事を大事に思ってるって事だよな…………とりあえず、アレナ本人に伝えて、どうするのか訊くか)
アレナとルウナも、元はゼルートの奴隷。
ゼルートが二人を購入しなければ、別の貴族に購入され……アレナは悲惨な未来を送っていたかもしれない。
だが、既にゼルートは二人を奴隷という縛りから解放し、一人の仲間として迎え入れた。
つまり……リーダーの元を離れたい理由が生まれた場合、基本的に離れることが出来る。
勿論ゼルートとしてはふざけんなという話ではあるが、出会った手順が奴隷購入とはいえ、一人の人間として接してきている。
この先もアレナを物として扱う事はない……そう決めているからこそ、ここでアレナの意思を無視してフィンザスたちを追い返すことなど出来ない。
「付いてきてください」
客間から退室し、フィンザスを現在ルウナと共に訓練中のアレナの元へ連れて行く。
(……どうしてアレナを直ぐに助けに来なかったって訊くのは、ナンセンスだろうな)
表情を見れば、失った仲間を直ぐにでも助けたかったであろう想いは容易に想像出来る。
実際問題、フィンザスたちは権力を駆使してアレナを取り戻す為に、国外で活動していた。
公爵家の令嬢であるミーユの財力ですら届かない金額が必要だった。
彼等のAランク冒険者であるため、大金は持っているものの……それでは敵わないと察して動いた。
ただ、フィンザスたちの耳にとある情報が入り込んできた。
アレナ……という名の冒険者がオルディア王国とディスタック王国との戦争で活躍したゼルートという名の冒険者と共に活躍したと。
アレナ、という名前はそこまで珍しくはない。
だが、彼女の実力を知っているフィンザスたちからすれば、仮にその戦争に参加していれば……活躍して名を上げるのは不可能ではない知っている。
ゼルートという名の冒険者と一緒に活動しているなど、少々理解不能な情報もあるが、彼らは情報屋を雇ってそのアレナに関する情報を集め始めた。
その結果、偶耳に入ったアレナが、自分たちが助け出さんと必死で動いていた人物、アレナであると確信。
そこから急いで移動して移動して移動してを繰り返し、ようやっとゼルートという冒険者の実家に到着。
(アレナ……ようやく、再会できる)
彼等はゼルートに対し、アレナを元々パーティーメンバーであった自分たちの元へ返してほしいと、頭を下げて頼んだ。
それは彼が金で解決することを好まないタイプと判断しての行動。
その判断は確かに間違ってはおらず、ゼルートからの印象が悪くなることはなかった。
だが、それでも最終的に金で解決する流れになれば、それ相応の金は用意している。
その額はゼルートがアレナを購入した時の金額よりも遥かに多い。
「丁度休憩中みたいだな……アレナ!」
「何、ゼルー、ト………………みん、な。えっ、なん……で、ここに」
信じられない物を見るような……まるで死人が生き返った光景が目の前にあるかのような顔になるアレナ。
しかし、それは元パーティーメンバーであるフィンザスたちも同じであり、互いに気付かない内に涙が溢れ出していた。
「あ、アレ「ストップ」っ!?」
ずっと会いたかった者へ駆け寄ろうとした瞬間、ミスリル製の棒が彼らの進路を塞ぐ。
ゼルートとしても、アレナの意思は縛りたくない。
それでも……歳相応に独占欲や、様々な思いがある。
できることなら、アレナには自分と共にいることを選んでほしい。
それ故に、フィンザスたちとアレナを必要以上に近づけなかった。
「アレナ……、この人たちはお前を自分たちのパーティーに返してほしいと俺に頼み込んだ。俺は良くしらんが、まぁ……この人たちなりに色々とやってきたとは思う」
「っ…………」
「その上で、お前はどうする……アレナ」
そこを、伝えずにやり取りをするのは卑怯だと判断し、適当ではあるもののゼルートはアレナに彼らは彼らでお前を取り戻そうと動いていたのだと伝えた。
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