少年期[992]誠意を示す姿勢、形

「ゼルート様、ゼルート様にお客様が来ています」


「ん? 俺に客ですか??」


妹のセラルと遊ぶ……もとい訓練を行うという休暇を満喫している最中、一人の騎士がゼルートに来客が来たと報告。


勿論、ゼルートは誰かが自分の元を訪れることなど知らない。


貴族は基本的に優秀な冒険者とは縁を作ろうとするものだが、ゼルートの場合は貴族の令息……から、正真正銘の貴族になり……今尚活動を続けている異例の冒険者。


本人が堅苦しい話が好きではないという話も広まっている為、貴族たちとしては下手に関わってうっかり怒りを買ってしまわない事の方が重要だった。


「貴族ですか? それとも騎士ですか?」


「いや、それがAランクの冒険者だそうです」


「???????」


ますます解らない。


Aランクの冒険者など……確かに数名程知り合いはいるが、仮に来るのであれば事前に手紙を寄越す。

一人そういうことをせずに訪れて来そうな者はいるが……後々それが問題となることを予想出来ないバカとは思えない。


(マジで誰だ? Aランクの冒険者なら、魔物の討伐を俺に依頼するのはあり得ないよな? それとも、Aランクの冒険者たちが俺やルウナたちを戦力として欲しい程の魔物が現れたってことか?)


解らない……本当に解からないが、まだゼルートが了承していない為、玄関前で大人しく待っているという態度を聞き、一先ず話だけは聞こうと決めた。


「お仕事のお話?」


「そうだ。悪いな、セラル。なるべく早く戻ってくるよ」


「分かった!!」


妹の笑顔に癒されながらも、一応来客が来たということで汗が染みた服から着替え、客間へと向かう。


「すいません、お待たせしました~」


客間に入り、突然の訪問者を見た瞬間……ゼルートは本当に彼らが何故自分たちの元に訪れたのか理解出来なかった。


(男性が三人、女性が二人……パーティーがAランクなんじゃなくて、全員がAランククラスの実力を有してる。こんな連中が俺に何かを頼むほど、強力で厄介な魔物が現れたのか?)


体面のテーブルに座り、早速本題へと入る。


「どうも、ゼルート・アドレイブです」


「初めまして、フィンザスです。蒼天の翼のリーダーを務めています」


蒼天の翼。

そのパーティー名を聞いた瞬間、ゼルートは彼らが何故自分の元に訪れてきたのかを理解した。


「…………なるほど。アレナに関してですね」


「っ、知っていたのですね」


「そこまで細かくは聞いていませんよ。パーティー名だけを聞いていただけで、名前やその他の情報は訊いてませんんから」


アレナにとって、そこを訊くのは古傷を抉ることになると判断し、所属していたパーティー名以外は訊いていなかった。


「ふぅ~~~~~……フィンザスさんがこうして俺の実家に来たということは、アレナを返してほしい……そういう事でよろしいですか」


「っ…………恥を忍んで、頼みたい」


フィンザスはその場で立ち上がり、綺麗に腰を九十度に折り、頭を下げた。

リーダーの行動に続き、残りの仲間たちも深く頭を下げる。


(……ここで金を出すからうんたらかんたらって言わないのは、かつての仲間を金で買うような真似はしたくない。そういったやり取りは俺の機嫌を損ねることになる……それが解かっての行動なのかもな)


お金というのは、もっとも誠意が示すことが出来る物。

ただ、逆を言えばそれだけで解決しようとする者は……金さえあれば、なんでも手に入ると思っていると、嫌なイメージを持たれる場合がある。


「はぁ~~~、とりあえず頭を上げて座ってください」


元々男爵家の令息……現在は伯爵家の令息であり、男爵の爵位を持つ正真正銘の貴族。

とはいえ、フィンザスたちからすれば一回り……とは言わないが、それほどの年齢が離れた子供。

そんな子供を前に深く頭を下げ、ゼルートと接触する前に裏でアレナと会い、無理矢理どうこうしようとしなかった……そういった事情も含め、ゼルート・アドレイブはその場で彼らに帰れとは言わなかった。

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