少年期[991]もう少し、緩めないか?
冒険者ギルドから頼まれたルーキーたちの指導を終えて以降、ゼルートは本格的に休暇を満喫していた。
とはいえ、全く体を動かしていないわけではない。
ブラッソやルウナたちとの模擬戦殆ど毎日欠かさず行っている。
それでもゼルートは妹であるセラルの相手をすることが多い。
セラルもあまり家に居ない兄と遊んでもらえるのが嬉しく、べったりと甘えていた。
「そういえば父さん、セラルには婚約とかそういう話は来てないんですか」
可愛い妹が寝た後、ゼルートは当主の執務室でゲイルと一緒にワインを呑みながら親子の会話を楽しんでいた。
「ふふ、やはり兄として気になるか」
「そりゃ勿論気になりますね。バカはできれば近づけない様にしたいので」
シスコンと言われたとしても、今のゼルートは「それがどうした?」といった態度で受け入れてしまう。
それほど妹であるセラルのことを可愛がっていた。
「レイリアの時と比べれば、断然多い。まぁ、今のところ全て上手くいってないがな」
ガレンとしては可愛い娘を婚約させるなど、言語道断。
とはいえ、もう貴族になって約二十年……そういう事が大事だというのは解っている。
そのため、独自に集めた情報の中から、この家の人間であれば……この令息であれば信用出来るといった人物に限り、ひとまず親同士……子供同士を会わせてみる。
「そうなんですか?」
セラルはゼルートから見て、家族大好き少女ではあるものの、レイリア姉さんの様に気が強いタイプではない。
「そうなんだよ。まぁ、前から上手くいってなかったんだが、最近はな……」
「さ、最近はどうしたんですか?」
「結婚するなら、俺やクライレット、ゼルートより強いと言ってるらしい。令息たちの前でな」
「っ!!!???」
まさかの条件に驚き固まり、グラスを持つ手が宙で止まってしまった。
「…………それは、その、幼い子供ながらに絶望するのでは、ないですか?」
「いや、まだ幼いからこそ相手の令息たちは意外とやる気を出すみたいで、令息たちの親から感謝されているんだ」
「は、はぁ~~。なるほど?」
解らなくはない。
解らなくはないのが……あまりにも無謀な挑戦ではある。
(自分で言うのはあれだが、せめて俺は抜かすべきだ。ぶっちゃけ、父さんと兄さんよりも強いって時点で殆どの連中が無理なんだから)
ガレンは既に四十を過ぎており、肉体的には全盛期を過ぎている。
しかし、レベルやスキルの恩恵もあって、まだまだ戦場で暴れられる程の強さを有している。
技量に関しては力の根源に近づいていると言っても過言ではないブラッソの斧撃、拳撃をいなす為に今現在でも向上中。
「父さんは元より、クライレット兄さんが相手でも……うん、基本的に無理ですよね」
「そうだな。並みの連中ではあしらわれて終わるだろう」
弟があまりにも跳び抜けすぎているだけで、クライレットもまた怪物の一人。
現時点でBランクの魔物をソロで討伐出来るほどの戦闘力を有しており、最終的にはAランクの魔物をソロ討伐出来るほどの潜在能力を有している。
「父さんが見てきた令息たちの中には、あしらわれずに立ち向かえそうな子はいたんですか?」
「まだまだ幼いからなんとも言えないが……何人かは、輝く物を持っていたな」
「へぇ~~~、楽しみな逸材はいたんですね。でも、輝く才能云々であれば、セラルも負けてませんよね」
「そうだ……いや、本当にそうなんだ。贔屓目で見ても、セラルは才能がある。おそらく、将来はゼルートやクライレット寄りの戦闘スタイルになるか?」
「…………そうなってくると、更に条件として自分より強い人というのが入ってきますよね」
「おそらく入ってくる」
「「…………」」
二人とて、信頼出来る男であればセラルを任せたいとは思っている。
しかし……そう思える令息が見つかったとしても、セラルにその気がなければ、娘の……妹の意思を無視する婚約となる。
それはやはり二人の望むところではない。
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