少年期[965]偶には闘争を与えねば
多くの者が、目の前の現状に……信じられないという眼を向けていた。
次期当主であるゴーティアスの攻撃が、全く届かない。
相手が隣国の英雄、男爵ということもあって本気を出してないない?
否、一度でもゴーディアスと一緒に戦ったことがある者であれば、今次期当主が弟の仇に対して本気で挑んでいると直ぐに察せれる。
(この男は、少年は……いったい、何なんだっ!!!!)
叫ぶ、何度でも心の中で叫ぶ。
この理不尽に思える差を……絶叫せずにはいられない。
年齢だけで言えば、ゴーディアスはゼルートの倍以上。
当然、それだけ人生経験に差があると言える。
それは間違いない事実……であれば、何故これほどまでに圧倒的過ぎる差があるのか?
「どうした、もっと殺す気できてくれ」
「ッ!!! 言われずともォオオオオオオオッ!!!!」
最後の挑戦者と戦うためのウォーミングアップ。
そう思っていたが、ゴーディアスもゴーディアスで瞬間火力はローレンスに劣るものの、総合的な戦力では決して大きく負けていない。
そのため、ゼルートもついつい礼節を忘れて相手の実力を引き上げるため、口が悪くなっていた。
ゴーディアスもゴーディアスでそんなゼルートの挑発に近い言葉を受け流せる余裕がなく、訓練場がどうなろうとも関係無い程の攻撃を連発。
(ローレンスさんとバチバチに戦ってたら、こんな感覚だったのかも、なっ!!!!)
勿体ないことをしたな~と思いながらも、あの時の選択に後悔はなかった。
どれだけゼルートやアレナたちがディスタール王国軍を圧倒していたとはいえ、それでも自国の戦闘者たちが一切殺られているわけではなかった。
故に、大将戦と言えど速攻で終わらせるべきだった。
だが……今回は誰かの命が懸かっている試合ではない。
強いて言えば挑戦者たちは完全にゼルートを殺せるなら殺すつもりで動いているが、結果としてゼルートの戦闘欲を刺激するだけ。
(どうせなら……久しぶりに使うか)
ニヤッと笑いながら取り出した新たな得物は……フロスグレイブ。
本当に偶々偶然手に入れ、ゼルートの愛剣となった業物。
「ッ!? いったい、どういうつもり、なのだ!!!!」
「別に、どういうつもりも、ありませんよ。ただ、こいつも偶には使ってやらないと、拗ねるかと、思ったんで」
「何なんだ、その理由は!!!!」
氷属性のロングソードなど……まるで生前のローレンスが使っていた武器と殆ど同じ。
そんな武器を何故ディスパディア公爵家の令息である自分相手に使うのか、真の意図は読み取れない。
読み取れないが……だが、目の前の少年が、ただただ遊んでいる……自分との戦闘を楽しんでいることだけは解かった。
(おっ、ほ!!! なんだなんだ、ディスパディア公爵家の人間は意図的にリミッターを外せたり出来るのか? それとも、この次期当主の長男とさっきの次男は、限界突破のスキルでも持ってるのか!!??)
まさかの展開に、ゼルートの笑みは一層深くなる。
(あ~~~~……あの次期当主さんも、ご愁傷様ね。確かに戦闘力が急上昇した。私やルウナが必死になるレベルには身体能力、反応速度が上がった。でも……それだけじゃ、ゼルートの本当に丁度良い遊び相手ね)
(ほぅ~~~。あの騎士、中々やるじゃないか。思いっきり撒き散らす殺気は伊達ではなかったのだな)
アレナはゴーティアスの必死さに対し、失礼ながら可哀想という感情を持ち……ルウナはいたって平常運転。
「ラストスパート! 派手に戦ろうぜッ!!!!!」
これまでの経験から、ゴーディアスが急激に身体能力の向上理由が、脳のリミッターが外れた類のものだと把握し……残りの十秒にも満たない開放時間、ゼルートはディスパディア公爵家次期当主の執念に敬意を持ちながらフロストグレイブを振るった。
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