少年期[962]不完全燃焼を恐れる
(なん、なんだ……この化け物は)
ゼルートの魔力量は、歴代の魔法使い……人間以外の存在、モンスターを含めても圧倒的なものであり、たかがそれなりに優秀……その程度の魔法使いが同じ土俵で勝てる相手ではない。
(この魔力量、質…………あの話は、本当だったというのか!!??)
開戦直後の大魔法を撃ち合う際、ゼルートはメテオワイバーンスコールを放ち……その直ぐ後に煉獄の凶弾と天竜の戯れを発動し、ディスタール王国側の冒険者や兵士、騎士たちを多く殲滅させた。
大勢の魔法使いが力を合わせてと言うのであればまだしも、たった一人の魔法使いがそれを行った聞いても……納得できるわけがない。
ゼルートがその直後にひとっ跳びで超最前線の位置に飛び降りて突貫したこともあり、ゼルートが実は接近戦よりも魔法関連の技術、攻撃力の方が優れていると言われても、それを信じる方が難しい。
とはいえ、本当に才能という面では武器術や体術よりも、魔法の方が優れているゼルート。
ディスパディア公爵家の次男は実際に相対したことで、ようやくその恐ろしい話が本当だったのだと理解出来た。
「…………危機感知力が高いのか、それとも魔力感知が優れてるのか……あんた、俺がここに来てからずっと震えてるな」
「っ!!??」
本心を見透かされ、表情に動揺が浮かぶインテリ次男。
ゼルートは危機感知力が高い人間を臆病者だとは思わない。
前世よりも圧倒的に人の命が軽く、殺せる道具と力が多い世界。
そんな世界で生き抜くためには、やはり危機感知力は欠かせない武器。
だが……現在、自分は相手の恨みや妬み、復讐心を受け止める立場。
そして、最後は鉄拳をぶつけて勝負を終わらせる。
しかし、目の前の人物はどう見ても復讐対象である自分に対して、憎しみよりも恐怖が勝っている。
「そんな状態で俺と戦っても意味はないと思いますよ。どうせ後から、自分はあの時本気じゃなかった、全力で出し切れていなかったんだって言い訳が止まらなくなる」
「ッ!!!!!! 貴様、何を、理由にっ!!」
「そういう見た目をしてるんだったら、今自分が図星を刺されたという状況を理解してくださいよ」
この時、ゼルートの頭の中にはまだ自分は全力を出していない。それを理由にインテリ次男が後で暴走するのを避けたいという考えが浮かんでいた。
(まっ、以前と同じようにすれば良いだけだよな)
自分の欲望のままに動くカスを相手に、自身も抑えることなく煽っていた時期を思い出しながら口を開いた。
「五男の方と四男の方は勇猛果敢に挑んできましたが、どうやら次男のあなたは先程自分と戦ったお二人、そして……あの戦争で、自分に最後の砦として挑んで来たローレンスさんと比べて、ただの臆病者だったようですね」
次の瞬間、火山が噴火したかと思えば、空気が急速に凍り付き始めた。
(言おうと思えばまだまだ煽り文句は出てくるけど、どうやらこれ以上必要ないみたいだな)
感情の爆発が恐怖を上回った。
そして……煽りに対してキレることはなかった。
インテリ風な見た目は伊達ではなく、この醜態は己の弱さが招いた結果。
それはどうしようもない事実であることを認め……今は悔しさを全て、ゼルートを倒すための力に変える。
「上等な魔力だ……こい!!!」
ゼルートの言葉が引き金となり、魔法合戦がスタート。
普通に考えればゼルートが一気に肉弾戦で詰めてしまっても問題はないのだが、五男と四男とでは土俵が違い過ぎるので、敢えて攻撃魔法の打ち合いという土俵に上がった。
(ふ~~~~ん……悪くないわね。攻撃力、魔法の連射速度……Bランクの中でも最上位ってところかしら。でも……やっぱり五男と四男の令息と同じで、その年齢にしてはそれなりにってレベルね)
アレナが考えていることは、インテリ次男も理解していた。
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