少年期[855]俺の魔物バージョンだな
十六人の生徒とゼルートの模擬戦、そしてスレンたち四人とルウナの模擬戦が終了しても、まだ授業時間は余っている。
という訳で、アレナにも似た様なことを行ってもらう。
ゼルートとルウナが圧倒的な実力差を見せ付けたことで、生徒たちは認識は改め……全力でアレナを倒しにいく。
(個人的には、もう少し学生らしく油断してほしかったな~)
そんなことを考えながらも、アレナは学生たちの攻撃を丁寧に対処していき、あっさりとゼルートと同じく急所に刃を添えていき、学生たちの格の違い見せ付けた。
「それじゃ……次は、ラームと戦ってみるか」
ゼルートに出番だと言われ、元気良く一歩前に出たラーム。
「「「「「「……」」」」」」
ラームが前に出てきたことで、生徒たちは目が点になる。
そして、決して口には出さないが……見た目は一般的なスライムと変わらない為、本当に目の前のスライムがゼルートたちと同等の強さを持っているのか、疑問に感じてしまう。
そんな生徒たちの疑問を、ゼルートが一瞬で解消した。
「こいつは、俺の魔物バージョンと思ってくれ。てか、この前の戦争でルウナと一緒に暴れまくってたしな」
「そうだな。ラームのお陰で助かった場面は多かった」
お世辞ではなく、実体験から出る感想。
戦争だけではなく、ダンジョンから溢れ出したモンスターの大群を討伐する時にも、大変世話になったと感じている。
二人から褒められたことで、嬉し気に胸を張るラーム。
そして怪物から、「こいつは俺と似た様なタイプ」と告げられた生徒たちはハッと我に返り、直ぐに真剣な表情に変わった。
「それでは、始め!!!」
一応、今回の模擬戦は八対一という状況だが……ラームはスライムの伸縮自在な体と水魔法を使い、生徒たちを圧倒。
今まで見てきたスライム……からのイメージとはかけ離れている戦いぶりを見せられ、観戦している生徒たちは呆然とした表情。
スレンたちもラームが戦う姿見たことがなかったので、他の生徒たちと同じく、口をあんぐりと開けて固まってしまっていた。
(凄いねぇ……世の中には、こんなスライムがいるのか)
間抜けな表情を晒すことはないが、担任教師であるイーサンも目の前の光景には心底驚かされていた。
ラームは今のところ体から伸ばせる触手に際限がなく、堅さなどもその場その場で変えることが出来る。
そして最後は触手で軽めに頭の上を叩かれ、掠り傷さえ負わすことが出来ず、模擬戦は終了した。
「どうだ、俺の魔物バージョンだろ」
「は、はい。そう、ですね……いや、本当に強かったです」
もう生徒たちの心の中に、ラームを馬鹿にする気持ちは一欠片も残っていなかった。
「まぁ、他のスライムはここまで強くないから、いざ対面した時にそこまで構えなくても良いぞ」
「ゼルートの言う通りね。スライム系の魔物の中で強い個体はいるけど、ラームほど強い個体は見たことないわ」
一番冒険者経験が長いアレナの言葉通り、ラームはスライムという種族を考えると、本当に奇跡の様な存在。
「でも、その……やっぱり、ラーム……さんみたいな、強い魔物はたくさんいるんですよね」
「そりゃな。ダンジョンとか潜ってたら、本当に多いよ。ただ……いざモンスターと戦い始めて厄介って感じるのは、逃げ足が速くて回復力が高いモンスターだと思うぞ」
一般的な冒険者の目線に立ち、厄介なモンスターについて少しだけ語った。
アレナとイーサンはゼルートの言葉に納得したが、ルウナは一人だけ「それはそれで燃える戦いになるだろ」という異次元の考えを持っていた。
「よし、一時間目はここまでだね。そろそろ教室に戻るよ」
ラームだけではなく、ゲイルやラルとも模擬戦を行うことが出来、生徒たちは本日体験できた内容に深く深く感謝した。
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