少年期[854]殺そうとしても殺せないから
「えっと……久しぶりだね、ゼルート」
「おぅ、久しぶりだな、スレン。一年半ぶりぐらいか?」
「多分、それぐらいかな。ところで、今の流れだと僕たちの相手もゼルートがしてくれると思ってたんだけど」
他三人も同じ気持ち。
しかし、ゼルートはとりあえず自分ではなくルウナに四人の相手をしてもらおうと決めていた。
「最初はそう思ってたんだけど、ルウナが相手でもありかと思ってな」
「そ、そっか」
スレンとしては、成長した自分の……友達との力をゼルートにぶつけてみたいと思っていた。
「ふふ。まっ、戦えば解るよ。ルウナ、よろしく」
「あぁ、任せろ」
やる気満々な表情に少々不安を感じたゼルートだが、ルウナも視る眼は持っている。
そこまで無茶をするつもりはないだろうと思い、「ちゃんと手加減しろよ」とは伝えなかった。
「それでは、始め」
十六人の生徒たちは壁際に移り、イーサンの合図で再び模擬戦を開始。
今度は生徒たちの中でもトップ中のトップである四人が、ゼルートの仲間であるルウナに挑む。
(あの化け物が相手ではないなら、スレンたち四人が一緒に戦えば……)
既に四人は卒業後、自分たちだけでパーティーを組むと明言している。
それもあって、入学してから個々の実力は勿論、四人での連携度も確実に向上している。
故に、観戦している生徒たちは、四人ならルウナに勝てるのでは? と、思っていた。
「ちっ! クソったれが」
「これは、予想外だね」
「はっはっは!!! どうしたどうした、そんなものか!? もっと本気で来い!!!」
前衛タイプの中ではツートップの二人が繰り出す連撃を、ルウナは全て丁寧に捌いていた。
操る武器は木剣だが、二人とも強化系のスキルは発動しており、木剣には魔力を纏わせている。
個々の力、スピードや技術も冒険者になったばかりのルーキーでは及ばず、Dランク冒険者でも二人の連撃に押されるだろう。
「ウォーターランス!!!」
「ファイヤーランス!!!!」
前衛二人にぶつからない様に、正確な魔力操作で攻撃魔法をぶっ放すリルとマーレル。
「良い攻撃だ!!!」
そう言いながらも……ルウナはゴーランとスレンの連撃を片腕で対処し、二人の攻撃魔法を残った片腕で空気を弾き、消し飛ばしてしまう。
(そ、そんな!!!)
(いくらなんでも、強過ぎない!?)
二人のランスはどちらも未熟ではなく、一定以上の攻撃力を持つ立派な中級の攻撃魔法。
まだ全力中の全力を出していないとはいえ、この結果は予想しておらず、二人の表情に驚愕が浮かぶ。
「どうした、その程度ではないだろ!! 安心しろ、お前たちが殺そうとしても、私は死なない!!!」
「「「「ッ!!!」」」」
お前たちが全力を出したところで、結局私を倒すことは出来ない。
そう言われたように感じた四人は抑えていた枷を外し、全力でルウナの潰しにいく。
「そうだそうだ、その調子だ!!! どんどんギアを上げていけ!!!!」
最終的には前衛二人が木剣に属性の魔力を纏い、後衛二人がユニゾンマジックを発動した。
(彼女もまた、英雄の一人ということなのでしょう)
四人が全力を出し切った結果……ルウナは満足げな表情を浮かべていた。
「良い戦いだった。またやろう!」
「「「「……はい」」」」
「ちなみに……解っているとは思うが、ゼルートは私よりも強いからな」
解ってはいた。
解ってはいたが……こうもハッキリ告げられると、心に来るものがある。
「四人とも、マジで強くなったな。今なら、Cランクのモンスターだって倒せるんじゃないか?」
学園入学する前まで、よく見ていたゼルートの笑み。
それを見て……四人の下がったテンションはプラスマイナスゼロまで戻った。
「四人でならそうかもしれないけど、卒業までには一人で倒せるようになりたいね」
「俺もだな」
「わ、私も!!!」
「勿論、私もよ」
ゼルートではなくルウナに結局何も出来ずに負けた四人の心が、バキバキに折れてないことを確認し、担任のイーサンはホッと一安心した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます