少年期[846]目指さない方が良いよ

「あの、ゼルートさんみたいになるには、どうしたら良いですか」


「「……」」


アレナとルウナによる模擬戦もそろそろ終わりの時間。

そんなタイミングで、一人のルーキーが二人にそんな質問をした。


ゼルートみたいになるには、どうすれば良いのか。


この質問、二人は直ぐに答えられなかった。


(どうしたら……いや、えっと……駄目ね。全く思い浮かばない)


(ゼルートに憧れを持っているのか……パーティーメンバーとしては嬉しい反応だが、具体的な方法は思い付かないな)


実質、戦争を終わらせる最大戦力となった一人の冒険者。


そんな冒険者が自分たちと近い年齢ということもあり、嫉妬する者もいるが、憧れの感情を持つ者も多い。

とはいえ、ゼルートは色々と普通ではない。


ゼルートが冒険者登録するまでどういった道を歩んできたのかは聞いているが、サラッとそれを一般的なルーキーたちに説明できるか……二人は数十秒ほど頭を悩ませた。


「正直なところ、ゼルートの様になる……それを目標にするのはお勧めしないわ」


「私も同じ考えだ」


「「「「「「?」」」」」」


ゼルートのパーティーメンバーであるルウナとアレナが、自分たちにゼルートの様になるという目標を設定しない方が良いと口にした。


それにルーキーたちは首を傾げる。

何故、仲間である二人がそんなことを口にするのか……まだルーキーたちには、直ぐに理解出来なかった。


「あの子が冒険者になるまで……ソロでモンスターと戦い続けてきたの」


「訓練に時間を費やす日と、モンスターと戦って経験を積むことに費やす日。それを交互に繰り返す。基本的に休む日はないと言っていたか」


「えっ……休まず、ですか」


「訓練以外にも色々とやっていたと聞いたが……結局休みらしい休みの日はないのだろうな」


休む日がない。

それを聞き……ルーキーたちは尊敬する二人の言葉であっても、直ぐに飲み込めなかった。


「言っておくが、嘘ではないと思うぞ。そうでなければ、あの歳であの強さまで到達するのは不可能だろう」


この言葉に、ルーキーたちは確かに、と納得した。


それは確かにそうだ……そう納得は出来たが、いざ二人が話す内容を子供の内から実行出来るかと考えれば……無理だと思ってしまう。


「冒険者になってからそれらを実行するにしても……厳しい部分はあるだろう」


「毎日生きていくにはお金が必要。ある程度栄養がある料理を食べてないと体が持たない。色々と問題はある……勿論、そこに才能という要因も加わってくるの」


才能。


その言葉を耳にしたルーキーたちは、一気に表情が暗くなった。


全ての平民が貴族に劣る訳ではないが、決闘によって紡がれた遺伝による才能には……確かに差がある。

ゼルートは一応貴族の令息ではあっても、その二人は元々平民。


とはいえ、二人とも戦闘力に関しては他者よりも秀でた力を持っている。

そこは確かに受け継がれているだろう。


「そうだな……ゼルートという存在を目指すのはお勧めしないが、強くなりたいのであれば敵に勝つための手段を増やす。それが一番の近道……近道か?」


「それで合ってると思うわよ。前提条件として、実戦と訓練を繰り返す日々が必要だけど」


暗くなった世界に、一筋の光が差し込んできた……ような錯覚を得たルーキーたちは、前のめりになりながらその手段について尋ねる。


二人は隠すことでもないので、その手段について話し始めた。


簡単に言えば、メインの武器の腕を磨きながらも、それだけで敵を倒すことに固執しない。

物凄く簡単な内容でいえば、砂を使った目潰し。


足払いや、いきなり攻撃範囲が異なる武器を使った奇襲。


卑怯などといった負け惜しみを気にせず、虚を突く手段を増やす。

その他に伝えられることは伝え、ルーキーたちは別れ際に今日一番の声で二人に感謝の言葉を伝えた。

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