少年期[844]ライバル視も良くない?

いきなり冒険者ギルドに現れたアレナとルウナだが……特に何か用がある訳ではない。

ただ、なんとなく訪れただけ。


「アレナ、どんなクエストがあるのか見てみよう」


「あまり討伐系のクエストは少ないと思うわよ」


どうせ今日は依頼を受けることはない。

しかし、アレナはルウナがどんなクエストに興味を持っているのか理解しており、予め望むようなクエストはないと伝えた。


そんなアレナの言葉通り、クエストボードには討伐依頼の依頼書はあるが、ルウナのテンションが上がるような依頼はなかった。


(騎士や兵士が真面目に働いていると考えれば、当然か)


それでも、ルウナは何か面白い依頼はないかと探す。


すると……一つの依頼書が目に留まった。


「アレナの、この学校名は確か……」


「えぇ、そうね。以前依頼を受け取た学園じゃない」


とある依頼書に、以前ゼルートたちが護衛依頼を受けた学園の名前が記されていた。


「そういえば、この依頼を受けている時にグレイスとコーネリアの息子である、ダンがやらかしたんだったな」


「あぁ~~……そうね。そういえばそんな事件もあったわね」


護衛依頼を受けている冒険者たちの最優先事項は、護衛対象の命を守り切ること。


その仕事には当然、モンスターと戦うことも含まれている。

しかし……あろうことか、ダンは自身の実力ではまだ敵わないモンスターに挑むという暴走を起こした。


ゼルートに任せて、他のモンスターが襲ってきても、生徒たちを守れるように構えていれば良かった。

それが正しい選択であるにも関わらず、ダンは無謀にもCランクのモンスターに一人で挑み、返り討ちにされた。


そしてその後、ゼルート自身……自分のキャラではないと思いながらも、ダンに対して全力で説教を行った。


「そういえば、あれ以降全く会っていないが、反省して真面目に取り組んでいると思うか?」


「……私は、真面目に取り組んでいると思うわ」


ダンは確かに愚かであった。

しかし、アレナは屑で正真正銘の馬鹿だとは思っていない。


冒険者として、やってはいけないギリギリのラインをやらかしてしまった……その状況を受け止めきれず、間違った方向には進まない。

根っこまでは間違っていないと、元Aランク冒険者はダンの芯を信じていた。


「だって、傍に優秀で熟練の冒険者がいるんだもの」


「ふむ、それは確かにそうだな。ただ……まだゼルートをライバル視……いや、ライバル視しているのであれば問題無いか。まだ敵視してるようでは、成長できていないのではないか?」


「ん~~、そうねぇ……そんな状態なら、ルウナの考えは否定出来ないわね。でも、あの時からそれなりに経ってるのだし、現実が見えるようになってる筈よ」


今回の戦争でのゼルートの活躍は、当然ダンの耳にも入っている。


普通に考えれば、ゼルートの活躍は冒険者になって五年も経っていない若造がなせるものではない。

自分とは、明らかに異なる何か……そう考えた方が良い。


ルウナはライバル視しているなら問題無いと口にしたが、基本的にライバル視していても、どんなに頑張っても追いつけないので、結局は辛くなってしまうだけなのだ。


「あの、アレナさんとルウナさんは、もしかしてその依頼を受けようと思っていらっしゃいますか?」


二人が過去の件について話し合っていると、一人の受付嬢が声を掛けてきた。


その依頼とは、未来の冒険者を育成する学園の臨時講師。

王都の学園ということもあり、報酬金額は拘束期間の割にはそれなりに高い。


悪くない依頼ではあるが、今のところ二人は特にその依頼を受けるつもりはなかった。


「いえ、特に考えてないわ」


「そうだな。懐かしい名前を見つけただけだ」


「そ、そうでしたか。もし気が変わりましたら、是非ともお声掛けください」


今のところ受けるつもりはない、が……二人はとりあえずゼルートに依頼内容を伝えようと決めた。

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