少年期[843]認識が緩んでいた
ゼルートがアドルフとミーユに呼ばれている間、アレナとルウナは久しぶりに二人で王都をぶらぶらと散策していた。
「ゼルートのやつ、生きて帰ってこれると思うか?」
「アドルフ様とミーユをなんだと思ってるのよ。取って食われるわけないでしょ」
勿論、ルウナも二人が悪人でないことぐらいは理解している。
ただ……何かしらの縛りを受けるのでは? と思っていた。
ゼルートは善人である爵位が高い者には、あまり強く出ない。
それでも誰かの下に付くような性格をしてないということは解っているが、それでもルウナの中で多少の不安は残っている。
「安心しなさい。今回の戦争に関して、もう少し詳しく聞きたいとか……もしくはセフィーレ様の件に関してぐらいでしょう」
「セフィーレの件……ふむ、セフィーレなら問題無いか」
ルウナの考えている縛りと、婚約者という存在。
まだまだ誰かと結婚、婚約する気がないゼルートとにとってそういう存在は邪魔。
しかし、アドルフとミーユからのお話とあっては、断り辛い。
それでも仲間であるルウナとしては、その婚約者候補の人物がセフィーレであるならば、全く文句はない。
公爵家の次女という立場ではあるが、今では一人の冒険者として活動し、現在は自ら立ち上げたクランのリーダー。
今回の戦争で戦果を挙げ、更に知名度を上げた。
「ゼルートは少しビビり過ぎ……ではないわね。今は私の感覚がおかしかったわ」
親友であるミーユがいるため、アゼレード家の者たちに対して、少々認識が緩くなっていたアレナ。
どんな者であっても、基本的に公爵家の人間に会うとなれば、緊張しない方がおかしい。
「でも、私はゼルートとのパートナーがセフィーレ様になるなら、大歓迎ね」
「それは私も同じだ」
どこぞの馬の骨かも分からない令嬢ならふざけるな! と怒鳴りつけるが、見知った顔であるセフィーレなら二人とも文句なしに受け入れる。
「むっ、美味そうな匂いがする。いくぞ、アレナ」
「さっき朝食を食べたでしょ」
「満腹までは食べてなかったからな」
「もう……まぁ、良いけど」
小言を言いながらもルウナの後に付いて行き、レッドオークの串焼きをアレナは二本、ルウナは六本頼んだ。
「ど、どうぞ」
串焼き屋の店主は二人の噂を耳にしており、緊張で串焼きを渡すとき、若干手が嬉しさで震えていた。
(この感覚、懐かしいわね)
Bランク、Aランクに上り詰めた頃……アレナが昔のパーティーに滞在していた街の冒険者ギルドを拠点としていた若い冒険者たちは、串焼き屋の店主の様に嬉しさで対面した時に緊張することが多くなった。
「さて、これからどうしようかしら」
「ノープランで宿から出てきたからな……ここは冒険者らしく、一先ず冒険者ギルドに行くか」
「今は休暇中だけど……私たちらしくて良いわね」
貴族の令嬢の様に、衣服やでキャピキャピする趣味はない二人は軽い足取りで冒険者ギルドに向かい、特に警戒することなく中へと入った。
「……ッ!! え、あの二人って」
「まじ、だよな……えっ、なんで二人だけ?」
ギルド内にいた冒険者たちは、一度目……容姿の優れた女性冒険者が来たな~……と思い、特に話しかけようとも思わず、自分の空間に意識を戻そうとした。
しかし、その容姿の優れた女性冒険者の特徴が……戦争で大いに暴れ、完全に戦争の主役となった人物、ゼルートのパーティーメンバーの容姿と一致し、二度見。
そしてじっくりと目を向け、噂通りの人物だと把握した冒険者たち。
いったい何の用があって、戦争が終わって平和な空気が漂っているギルドに訪れたのか……ギルド内にいた冒険者たちにはさっぱりだった。
因みに、この時ゲイルたちは人間の姿になり、朝食をしっかり食べたにも拘わらず……王都中の露店料理を食べ歩いていた。
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