少年期[841]一難去る前にまた一難
祝勝会から宿に戻り、部屋でダラっとしていたゼルートに一通の手紙が届いた。
「あら、アゼレード公爵家からの手紙じゃない」
「本当だな……え、なんだろ」
何故アゼレード家から手紙が来たのか、全く予想が付かない故に……封を切る手が震えるゼルート。
(何か失礼なこと言ったっけ? 普段通りの感じで話してたと思うんだが……と、とりあえず見ないことには始まらないよな)
意を決し、ゼルートは封筒の中に入っていた手紙を読み始めた。
「ゼルート、なんて書いてあったんだ?」
「……要約すると、三日後の昼に会えないかという手紙だった。送り主は、アドルフさん」
手紙にはアドルフ以外に、ミーユも同席するという内容が記されていた。
(アドルフさんとミーユさんの二人とお話、か……マジで何を話すんだろ?)
仮にアゼレード家の騎士団に入らないかと誘われたら、やんわりと申し訳ありませんと断る気満々。
どんな待遇が用意されてようとも、騎士団などに入団するつもりは一ミリもない。
「セフィーレの兄の……あのどう視ても強い男か」
「そう、その人からのお手紙だ。一応、一人で来てほしいって書かれてある」
「あらそうなの? まぁ、アドルフ様からのお誘いなら、大丈夫だと思うわよ」
「俺も別にそこら辺は疑ってないよ」
怪しい手段を使い、自分を利用しようと企む……なんて馬鹿なことをアゼレード家の人間が考えているとは思えない。
ただ、仮にそういう事態になり、ゼルートの意識が失ったとしても……誰も同行することは出来ない。
「ただ……やっぱり緊張はする」
「戦場での戦いの方が楽、って感じということね」
「本当にその通りだよ」
少々無理矢理意識を振り切った部分がないとは言えないが、ゲイルと一緒に敵軍を真正面から潰していた時の方が、全然緊張していなかった。
「とりあえず、返事を書かないとな」
勿論、断ることなんて出来ない。
当然お伺いしますという返事を書かなければならない。
(無事に戦争が終わったとはいえ、やらなきゃいけない事が多いな)
新しい家名を考え、家の家門も考えなければならない。
(正直、家名なんて……カッコ悪くなければ、なんでも良いんだよな)
とはいっても、中々決まらないのが現実。
いったいどんな家名にすれば良いのか……そんな事で頭を悩ませていると、もう一通の手紙がゼルート宛てに届いた。
「これは……王家からの手紙ね。ぜ、ゼルート! 大丈夫!?」
アゼレード家からの手紙が届き、今度は王家からの手紙が届いた。
何故……戦争が終わったのに、こうも試練が何度も訪れるのか。
いったい自分はどこで、どんな悪行を積んでしまったのかと頭を悩ませる。
(…………頭痛いけど、とりあえず読まないとな)
自分の元に手紙が届けられた以上、絶対に読まなければならない。
暗い気分のまま手紙を読み……とりあえずため息を吐いた。
「はぁ~~~~」
「ど、どんな内容だったの?」
「ゼブリック様が、是非とも今回の戦争の件で、お礼を伝えたいそうだ」
「あら、そういう内容だったのね」
アレナは「それぐらいなら全然問題無いじゃない」といったテンションではあるが、ゼルートからすればそういった方々と会うということが決定するだけで、胃がキリキリする。
(悪くない……良い方だというのは知ってるんだが、それでも面倒としか思えない)
対面した時には、絶対に顔にそんな感情を出してはならないと思いながら、ゼブリックにも返事の手紙を書き始めた。
そして祝勝会で出された料理に負けず劣らずに夕食を宿で食べ、翌日……ゼルートは珍しくアレナとルウナに二度寝を宣言した。
数日後には、胃がキリキリする用事が待っていると思うと、今の内にだらだらしたいという思いが溢れ出てきた。
常日頃から頑張っているのは知っているので、二人はそんなゼルートの頼みにとやかく言わず、了承した。
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