冒険がしたい創造スキル持ちの転生者

少年期［８３９］特には決めていない、が

「ご無事だったのですね、ゼルート様」

「えぇ、頼りになる仲間もいたお陰で、怪我を負うことなく無事に帰ってくることが出来ました」

怪我を負うことなく……このセリフに先程までゼルートを囲っていた者たちの方が、ビクッと震えた。

ゼルートが一介の冒険者、男爵家の次男から男爵という地位を手に入れた。

それを考えれば、耳に入ったゼルートの話は本当だったことが解る。

ただ、怪我を負うことなく帰ってくることが出来た……つまり、あれだけ無茶なことをしておいて、全く怪我を負うことがなかった。

ゼルートがルミイルを不安にさせない為に……もしくは、見栄を張るためにそう言っているのかもしれない。

しかし……貴族の、権力の世界で生きる者として、相手がよっぽど交渉場などに慣れていなければ、嘘を付いているか否かぐらいは解る。

そしてゼルートの表情をチラ見していた者たちは、ゼルートがルミイルに対して嘘も見栄も付いていないことが解り、心底その戦闘力の高さに震えた。

「そうですか、それは本当に良かったです」

ルミイルの耳にも、ゼルートが戦場でどのように活躍したのかという内容が入っていた。

本人には言えないが、何故そんな馬鹿なことをしたのかと思った。

最初の敵軍に大ダメージを与える特大攻撃魔法の連発。

それだけでも十分な活躍はしている。

そこから前線に向かうという事が馬鹿だと思っていない。

ただ……ゼルートはただ前線に向かうのではなく、後方から最前線に跳び……更に思いっきりディスタール王国側に喧嘩を売った。

そして従魔であるゲイルと一緒に文字通り、一直線に敵を打ち破りながら進んだ。

（な、何故そんな無茶を？）

ルミイルがそう思ってしまうのも、無理はなかった。

話を聞いた貴族、騎士も皆同じようなことを思った。

「ゼルート様のご活躍は耳にしましたが、もしよろしければゼルート様の口からお聞きしてもよろしいでしょうか」

「そうですね……では」

武勇伝を語るような流れになり、少し恥ずかしさはありながらも、第三王女の願いに応えるために当時の戦況や……自身が戦った者たちとの細かい内容を語り始めた。

既に戦争から幾日か経っているが、ゼルートは当時の様子は昨日の出来事の様に覚えており、当事者の口から離される内容に……周囲の者たちは目の前の人物との会話が途切れないようにしながらも、耳はその話に集中していた。

「最後は、以前に国王陛下から頂いた業物のお陰で勝利を収めることが出来ました」

「……確か、獅子王でしたか？」

「はい。普段は使わないのでが……相手の決意に答えるべきかと思いまして」

最後の砦まで現れた侵略者。

その侵略者に対し、壁として立ちはだかるのであれば、どんな立場の人間であろうと死を覚悟せねばならない。

死ねば……今まで積み上げてきたもの……その他、全てを失うことになる。

当然、ローレンス・ディスパディアにも家族がいた。

戦死すれば家族にも二度と会うことは出来ない。

それを解っていながら、ローレンスは自身の責務を全うする為、理不尽過ぎる敵に立ち向かった。

「ふふ、流石ですね。ゼルート様……ところで、これからはどうなさるのですか？」

この後の予定は？　という質問ではなく、これからどうなさるのかとルミイルは質問した。

その質問に、周囲で聞き耳を立てていた者たちの心臓は……超バクバクしていた。

前者の質問であれば、ルミイルがゼルートを異性として狙っている……そう捉えられてもおかしくない。

確かにゼルートはこのオルディア王国にとって、若干十三歳ながら英雄的存在になろうとし、本日から男爵という地位まで貰った。

だが、それでも王族とのそういった関係……はたまた、婚約関係などに発展するのは、多くの問題が発生する可能性がある。

「これから、ですか……今は特に何も考えていませんが、少し休んでからまた冒険に出ようと思ってます。自分は冒険者ですから」

国から爵位を貰い、貴族になっても冒険者という職に誇りを持っている。

ゼルートからそんな想いを感じ取った者たちは、自分よりもだいたい一回りは歳下のゼルートに敬意を抱いた。