少年期[838]本当に惚れたら……そんなの関係無い?

パーティー会場に国王陛下が現れたことで、一旦場は静寂に包まれた。


そして国王陛下から労いの言葉を頂き……それ以上の堅苦しい言葉は省かれ、ようやく祝勝会が行われた。


(さて、美味い飯を食べつくすぞ)


祝勝会での楽しみ……それはやはり、パーティー会場のテーブルに置かれている凄腕シェフたちが作った料理の数々。

それを食すのがゼルートの楽しみであり、それはルウナも同じだった。


とはいえ、ここは冒険者の宴会場ではない。


権力のある者、繋がっておいて損はない者たちと話しておきたい、そう考える者が多数いる。

当然、ゼルートもそういった部類に当てはまる為、多くの貴族や騎士がゼルートたちの元へ集まってきた。


(な、なんで……さっきまでちょっとビビッて、近寄りがたいみたいな表情してたのに)


確かにゼルートが思う通りの表情をしていた者たちが多かったが、セフィーレがゼルートに話しかけたことで、決して近寄りがたい存在……という訳ではないという印象を持つ者が増えた。


失敗してしまったらそれまでと思い、多くの者がゼルートに……アレナとルウナに集まった。


ちなみにこの時、ゲイルたちは王城のワイバーンなどが寝床にしている場所で、凄腕シェフたちの料理を食べながら緊張感など一切感じず、従魔だけの宴会を楽しんでいた。

ただ……傍にいるワイバーンたちだけは、その存在感に少々怯えながら過ごしていた。


「何か……厄介な魔物などが現れれば、冒険者ギルドを通して依頼を受けますよ」


色々と質問されたりする中、ゼルートは貴族たちに絶対に自分が誰かの下に付くことはない……だが、正式な依頼であれば願いを受けるという意思を伝えた。


強敵との戦い……これに関しては、ゼルートだけではなくルウナやゲイルたちにとっても有難い依頼。


強敵との実戦を体験することができ、尚且つ報酬まで手に入る。

ゼルートたちにとって、良いことしかない。


「すいません、今はあまりそういったことは考えてないので」


そして、まだ十三歳と若過ぎるゼルートには……当たり前のように、自分の娘を婚約者にどうか、という提案が何度もくる。


ゼルートもいずれは結婚したいかな、なんてことは考えている。

しかし、密度が高い時間を過ごしてはいるが、まだ冒険者になって二年も経っていない。


まだまだ冒険に時間を使いたい思いが強いため、婚約者などをつくる気は一ミリもない。

仮に……仮に、そういうった存在をつくるとしても、ゼルートはある程度の強さを求める。


自分の訓練相手になって欲しいから、なんて理由ではない。


どう考えても、自分は敵を作りやすい。

絶対に守れる……なんて保証はないため、婚約者になる人物にもある程度の強さを求めたい。


もっとも、ゼルートが本気で惚れるような存在がいれば……そんなことを求めないだろう。


(さすがにちょっと疲れてきたな)


祝勝会が始まってから約一時間が過ぎ、ゼルートとコンタクトを取りたい人物も減ってきた。

とはいえ、消えては増え、消えては増えてとゼルートからすれば、自分を囲う者たちが減ったとは思えない。


そんな時、とある人物がゼルートの元を訪れた。


「ゼルートさん、少しお時間宜しいでしょうか」


その人物がゼルートに一声かけると、モーゼの十戒のようにゼルートを囲んでいた者たちが左右に別れた。


(えっと……良いのかな?)


ゼルートは一応、自分と話していた最前列の人物たちに目を向けると、その者たちはどうぞどうぞと言わんばかりの表情で、ゼルートと話す権利を後方の人物に譲った。


「えぇ、勿論です。ルミイル様」


そう……ゼルートに声を掛けてきた人物は、オルディア王国の第三王女であるルミイルであった。


まだまだゼルートと縁を作りたいと考えている人物は多いが、ゼルートに声を掛けた人物が王族とあっては退かねばなるまい。

全員が同じことを考え、一旦ゼルートを囲んでいた者たちは解散した。

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