少年期[830]既に勝利は伝えられている

ディスタール王国との戦争で勝利を収めたゼルートたち。


戦争の立役者となったゼルートたちが次に向かうのは……ホーリパレスに戻り、まだ探索されてないエリアの探索?

それとも一度実家に戻り、休養?


……そのどちらでもない。

ゼルートたちは、数日間だけ休んだ後……王都に向かわなければならない。


(面倒だな~~……でも、面倒なんで欠席します。なんて我儘な意見は通用しないからな)


本人の気持ち通り、そんな我儘な意見は通用しない。

これが実力は超あるが、素行に問題があるスーパー問題時であれば、欠席が可能だったかもしれない。


ゼルートは……そこそこ同業者や貴族と衝突するので、決して優等生とは言えないが……それでも、元々貴族の令息ということもあり、普段の態度は問題無いので絶対に出席しなければならない。


「ゼルート、諦めなさい」


「アレナ……俺が考えてること、分かるのか?」


「国王様と会ったり、祝勝会のパーティーに参加するのは面倒だなって思ってるんでしょ」


「……心読めるのかよ」


「顔に出過ぎなのよ」


今のゼルートの表情からであれば、アレナでなくルウナもゼルートの気持ちが理解出来る。


一向は現在王都に向かう途中の街でゆったりとした時間を過ごしている。

ちなみに……オルディア王国側が勝利したという話は国中に伝言が回っているので、王都では祝賀会の準備が行われている。


勿論、この祝勝会などにはゼルートたちだけではなく、ゼルートの両親であるガレンやミレアも参加する。


(まぁ……父さん達も参加するし、そこまで気が重くならずに済むか?)


ガレンやレミアだけではなく、セフィーレたちも参加するのでゼルートが決して一人になることはない……おそらく。


とはいえ、ガレンやレミア……セフィーレたちが他の参加者に捕まったりすれば、ゼルート一人だけで会話したがる貴族や騎士たちを相手しなければならなくなる。


(祝勝会の場なんだし、俺に喧嘩売って来る人は……流石にいないよな?)


この考えがフラグにならない様にと祈りつつ、腹が減ったので宿の食堂で昼食を食べ始めた。


「ゼルートなら、男爵は確実だろう」


「そうね。最初の特大攻撃魔法に、一気に最前線に跳んで一直線に進んで、敵の難敵をたくさん倒した。それを考えれあ、男爵になるのは当然ね」


男爵という地位の前に、騎士爵という地位があるのだが、既にゼルートの強さはそんな地位に収まるものではない。


「そうなるのはもう諦めてる……けど、男爵以上の地位は要らないな」


「何言ってるのよ。私は男爵になるのは当然って言ったのよ」


「……男爵を飛び越えて、子爵になる可能性があるって思ってるのか?」


「当然じゃない。ゼルート、もう一度自分が今回の戦争でどれだけ活躍したのかを振り返りなさい」


アレナに言われた通り、ゼルートは自分が戦争でどれだけ暴れたのかを思い返した。


(そりゃ絶対に勝つために……知り合いが少しでも死ぬ可能性が減る様にって、かなり頑張ったけど……だからって、そこまで貰う爵位が上がると変に恨みを買いそうだしな)


誰彼構わず喧嘩したい訳ではないので、心の底から男爵以上の爵位は欲しくないと思っている。


「可能性としてゼロとは言えなそうだけど、やっぱり俺的には男爵で十分だよ。爵位を貰ったとしても、まだまだ冒険者としての人生が続くんだし」


「ゼルートは生涯現役というイメージがあるな」


「将来現役か……冒険者を引退しても、ある程度体を動かせるようにしておきたいとは思うな」


歳を取ったとしても、守りたい存在は必ずいる。

それを考えれば、ゼルートは必然的に将来現役になるのは当然かもしれない。


「ゼルートなら、六十歳七十歳になってもバリバリ動けるでしょうね……あっ、それとゼルートはこれから貴族の令息から貴族の一員になるのだから、苗字……家名を考えないとだめよ」


「……はっ!?」


よくよく考えれば常識であり、父親であるガレンも通った道。

しかし、戦争を終えてからゼルートの頭に、そんな一大事な内容は一ミリも浮かんでいなかった。

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