少年期[829]何も問題はない……筈

セフィーレSIDE


ゼルートとの会話を終え、その場で一晩を過ごすことになったゼルートたち。

そんな中、セフィーレは兄や姉たと一緒に夕食を食べていた。


「ふふ、セフィーレも修羅場を体験していたのね」


「修羅場……一応そうなのかもしれません」


確かに一対一でBランクの冒険者と戦う機会があり、その戦いを乗り越えることが出来た。


しかし戦争が終わった後に軽くゼルートと話し、自分が越えた壁は小さいと感じた。


(Bランク冒険者との死闘を制したのは、確かに一つ成長できたと言えるかもしれない。だが……)


ゼルートの様に、大活躍とはいかなかった。

勿論、セフィーレはクラン、ブレスのトップであるのでメンバーの安全も考えながら動かなければならず、無茶な行動は当然出来ない。


ゼルートはゲイルと一緒に最前線から、ただただ真っすぐ無理矢理進むことが出来たので、強敵と戦う機会はそれなりに多かった。

最後のローレンスとの戦闘など、一瞬で終わりはしたが、ローレンス自身は間違いなく強者に分類される存在。

そしてそのローレンスとの決闘に、ゼルートは非常に満足感を感じていた。


「はっはっは! 妹はゼルート君に夢中だな」


「夢中……そうなのかも、しれませんね」


ゼルートのお陰で、自分は家の試練を無事に乗り越えられた。

セフィーレは自分の実力が平均よりも低いとは思っていないが、それでもまだ強者の部類に入れてないと感じている。


(あの時、ゼルートたちが護衛の冒険者でなければ、カネルたちを失っていたかもしれない)


ゼルートに嫉妬し過ぎて馬鹿な行動を起こしてしまい、けじめをつける為に死んだローガスは置いといて、ダンジョンを最下層まで攻略する際……確かにゼルートたちがいたことで、セフィーレたちは万全な状態で最下層まで辿り着くことが出来た。


それからゼルートの強さは、セフィーレにとって一つの目標となった。


「あらあら、随分正直じゃない。でも、セフィーレがそこまで入れ込むのも解らなくはないわね」


ゼルートがただの強者でないということは、セフィーレの姉であるミーユも知っている。

ミーユの為に、わざわざクソ貴族と競り合い、大切な友人を救ってくれた。


(まだセフィーレに婚約者はいないし……これはやっぱりチャンスよね)


ミーユはセフィーレの心の内を読んでおり、ゼルートに対する尊敬以外の感情も察知していた。


「アドルフお兄様、そう遠くない内に姪の顔を見れるかもしれませんね」


「……うん、ありだね」


ミーユの言葉にアドルフはうんうんと嬉しそうに頷くが、セフィーレはあまり理解出来ていなかった。


「?? お姉様、ようやく良き男性を見つけたのですか?」


「あら、私の話じゃないわよ」


姉の言葉に更にはてなを浮かべるセフィーレ。


妹は自分の気持ちに鈍感だなと思いながら、会話の詳しい内容を告げた。


「セフィーレが、いずれゼルート君と結婚したら、アドルフお兄様は姪の顔を見れるじゃない。勿論、私もね」


「…………ッ!!??」


言葉の意味を理解し、セフィーレの顔は一気に赤くなり、爆発した。


周囲でアゼレード公爵家の子供たちの会話を聞いていた者たちは吹き出し、食事をのどに詰まらせる者もいた。


「それは…………」


特に大声を出して慌てることはないが、それでも顔は赤いまま……完全に食事の手を止めてしまった。


「しかし、ゼルートにはアレナとルウナがいます」


「確かに二人ともゼルート君を慕っていると思うけど、そういう感情は持ってるのかしら? 仮に持っていたとしても、彼は貴族になるのだから一夫多妻でも問題ないと思うわよ」


「……それはそうですね」


一般人でも一夫多妻は不可能ではないが、大体物理的に甲斐性が足りないので、生活が破綻する。


しかしゼルートの場合、財力的には超余裕がある。

加えてこれから貴族になることは……アドルフやミーユの中では決定事項なので、是非とも妹の婚約者はゼルートに

なって欲しい。

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