少年期[828]善処はする

ゼルートは家族と無事に再会した後、今度はセフィーレたちと顔を合わせた。


うっかりテントの中ではなく、外で話し込んでしまった為、相変わらずゼルートに嫉妬の視線を向ける者が多い。

だが、中にはゼルートが特大広範囲魔法を放った後……直ぐに煉獄の凶弾と天竜の戯れを発動した姿や、一回の跳躍で最前線まで跳んでいき、敵国の兵士や冒険者、騎士に対して盛大に喧嘩を売った姿を見ていた。


そんな光景を見た後では……気に喰わない部分があったとしても、容易に絡めるものではない。


戦争が始まる前にゼルートに絡んできた三人のうち、ナルシスト顔だけ野郎と腹黒おそらくDV野郎はゼルートの活躍を耳にし、歯ぎしりしながら悔しそうな表情を浮かべていた。


だが、そんななかでおそらく堅物野郎だけはその活躍を耳にし、もっと精進しなければと思えた。


「やぁ、お疲れ様。活躍は耳にしてるよ、ゼルート君」


「アドルフ様。お疲れ様です」


声が聞こえた方向に振り向くと、そこには副騎士団長でセフィーレの兄であるアドルフがいた。


「そんな硬くならないでくれ」


「そう言われましても……」


「……言っただろ。君の活躍は既に耳にしていると。分かってはいたが、それでも本当に凄いと思ってるよ。一応伝えておくと、ガレンさんが自分たちに付いて行動していたブラッドオーガは、ゼルート君の従魔であると上に報告している」


「ブラッソのことですね」


ここ最近はずっとゲインルート家にお世話になっているブラッソだが、それでも一番最初に出会い……仲良くなった人物はゼルートであり、本人も自分はゼルートの従魔だと断言している。


「そのブラッソ君だけど、今回の戦争で敵国のAランク冒険者を少なくとも四人は潰しているらしい」


「……チラッとだけ話は聞きました」


ブラッソからどういった人物と戦ったという話を聞き、本人がそれなりに満足気に語った内容の中に……Aランク冒険者がいたのは覚えている。


「その功績はガレンさんの功績ではなく、君の功績に入る」


「そう……なりそうですね」


アドルフの話を聞く限り、そうなるのが当然の流れ。

そこに対し、何の疑問も持たない。


ただ、後ろで二人の話を見守っているアレナは、アドルフが何を言いたいのか理解していた。


「ただでさえ、君は最前線で物凄く活躍した。いや~~、後ろで特大魔法を放ったと思ったら、いきなり最前線に跳び出てきた時は本当に驚いたよ」


「ど、どうも」


これに関しては、アドルフは本当に驚いていた。


ゼルートが戦闘となれば、それなりに血気盛んになることは予想出来ていたが、いきなり最前線に跳んで現れ、しかも大声量で喧嘩を売った。

一連の流れを見て、アドルフはその当時……馬の上で大爆笑していた。


「そんな君の活躍。そしてパーティーメンバーや従魔の活躍を考えれば、君が今回の戦争で活躍した褒美として、貴族の令息から貴族になるのは間違いない」


「「「「「「ッ!!!!????」」」」」」


サラッとゼルートが令息から貴族になるであろうと口にしたことで、周囲の貴族……または令息、令嬢たちは心の底から驚愕し、腰を抜かす者までいた。


「あぁーー……やっぱり、そうなりますか」


「そうだね。あそこまで活躍したんだから、そうなると思うよ。だから、もっとフランクに話してよ。そうなれば、地位的にはそんなに変わらないんだからさ」


厳密に言えば変わらない訳ではないが、アドルフはまだアゼレード公爵家の当主になっていたない。


ただ、ゼルートが国王陛下から褒美として貴族になれば、新しい家の当主となる。

そうなれば……形だけであれば、アドルフよりも上の立場というのは間違っていない。


「は、ははは。善処します」


ゼルートもアドルフが何を言いたいのかは解るが、セフィーレの兄ということもあって、そう簡単に態度を変えるのは難しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る