少年期[827]吼えた時、理性もあった
ガレンとレミアと無事に再会し、ゼルートは周りの兵士や冒険者、貴族に衆目されながら学生たちが拠点にしているテントへと向かった。
「クライレット兄さん、レイリア姉さん!!」
視界に五体満足の兄と姉の姿が映り、ゼルートは思わず大きな声で叫んでしまった。
その声でクライレットとレイリアもゼルートの存在に気付き、全力ダッシュ。
二人はレミアと同じく思いっきりゼルートを抱きしめた。
ただ、この時ばかりはゼルートも二人と同じく抱きしめ返した。
勿論、全力で抱きしめてはいない。
そんなことすれば、ステータスの差で二人の骨をバキバキに折ってしまう。
「ゼルートも無事だったのね」
「うん、全然無事だったよ。息つく暇がないって感じだったけど、対処出来ないってほど忙しくはなかったかな」
常に気配察知を使い、なるべく先読みしながら戦い……時には反応速度に任せて攻撃を対処。
僅かな隙を発見すれば、容赦なくぶっ刺していた。
「兄さんと姉さんは大丈夫だった?」
二人が五体満足で生きている。
それは見れば分かるが、チラッとだけ学生たちの方に敵が襲い掛かったという話を聞いた。
「……正直、アラッドがくれた錬金獣? あれがなかったら危なかったわね」
「同感だな。本当は僕と、パーティーメンバーだけで何とかしたかったが、そうもいかなかったよ」
クライレットとレイリアでも対処出来ない?
いったいどんな敵が二人や、二人の仲間に襲い掛かってきたのかを聞き……ゼルートは二人が錬金獣に頼った理由に納得した。
(それは確かに、錬金獣に頼らなかったら不味かったな)
斥候系のCランクが三人と、一番油断した隙を狙う斥候が一人。
そしてクライレットの方には、クライレットたちが生徒たちの方に加勢しない為に投入された、Bランクの冒険者が相手。
二人が努力する天才だということは知っているが、経験数などを考えれば、追い詰められてしまうのも仕方ない。
逆にそこで意地を張って自分や仲間の力だけでどうにかしようと考えていれば、仲間や同級生を失っていた可能性が非常に高い。
最後の最後でレイリアたち襲おうとした斥候の力量なら、確実に生徒を五人は殺していた。
クライレットたちも、仲間を犠牲にして勝利を得ることが出来た……かもしれないといった戦況。
二人にとっては癪かもしれないが、ゼルート作の錬金獣に頼ったことは、決して怠慢でも甘えでもなかった。
「とりあえず、二人が無事で本当に良かったよ」
「それはこっちのセリフよ。ドカンっとでっかい魔法を撃ったと思ったら、いきなり最前線に跳んで盛大に喧嘩売るんだもん」
「あれには少し驚かされたな。まぁ、他の兵士や冒険者と比べて圧倒的に高い実力を持っているゼルートが敵の意識を引き付ければ、戦争が少しぐらいは上手く運ぶ可能性はあっただろう」
クライレットはゼルートの考えを全て読んでいた。
(な、なんでそこまで細かく解るの?)
感情的に吼えた部分は確かにあったが、少しでも敵の意識を自分に向けられたらという考えもあった。
「でも、途中からはあまり同業者たちと戦わなくなったね」
「あらそうなの? ゼルートは確かに強いし、一緒に動いてたゲイルもずば抜けてるから……恐れをなしたってところかしら」
レイリアは冗談で言ったが、クライレットはまさにその通りだと考えた。
「そうだろうな。兵士や騎士、貴族であれば国と国の戦争からは逃れられない。迫って来る相手から逃げるなど、仮に生き残ったとしても一生後ろ指を指されるのは間違いない」
「えっと……つまり本当にそういうことなの?」
「僕はそう考えるよ。冒険者であれば、よっぽどの理由がない限り、わざわざ絶対に死ぬと解っている死地に向かう必要はない」
後から何か言われる可能性があるのは同じだが、ゼルートとゲイルが敵を容赦なく武器、魔法を使って紙切れのように葬っていく姿は、多くの冒険者が見ている。
その為、ゼルートとゲイルとの戦いから逃げたとしても、それについてとやかく言う同業者は殆どいない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます