少年期[822]遂に戦場で……
「同じ氷の武器ってのもあれなんで……武器を変えさせてもらいますよ」
「好きにすると良い」
たとえ武器を変えたとしても、お前が私に勝つことはない……なんて粋なセリフは続かない。
寧ろ、フロストグレイブで方がローレンス的には有難いが、交換を止めろと言ったところで止められやしない。
「それじゃあ、やりましょうか」
ゼルートがアイテムリングから取り出した一振り。
それは……かつて王城で開催されたパーティーで、三人の貴族の令息とやり合うことになり、その勝負に勝利した褒美として国王陛下から頂いた武器。
武器の詳細は刀。
名は……獅子王。
ランクは九と、まさに国宝級の一品とも言える一振り。
圧倒的な切れ味など、一般的な魔剣などと比べ物にならない付与効果を持つため、ゼルートは悪獣との戦いでも抜かなかった最強の武器。
当然、以前戦った悪獣よりも目の前のローレンスが強いとは思えない。
そして……事実として、ローレンスは悪獣よりも弱いが……そんなことは関係無い。
総大将の盾となるために、死ぬ覚悟で前に出た男に敬意を表すため……獅子王をアイテムリングから取り出した。
「な、なんだあの武器は」
「あれが……武器が放つ、威圧感なのか!?」
「……もう、駄目だ」
獅子王はまるで強者や高ランクのモンスターの様に、周囲に威圧感を与えた。
その影響でディスタール王国側の者たちは絶望に打ちひしがれる。
ゼルートはローレンスを殺せば、第三王子の身柄を拘束するだけで、周囲の者たちをどうこうしようとは考えていない。
ただ、そもそもゼルートという自分たちにとって強敵最悪な敵が、獅子王という謎の名刀を持ち……その名刀から発せられる威圧感の影響も相まって、自分たちもこの後殺されてしまうと思ってしまっている。
(どうやら完全に心が打ち砕かれたようだな。もう、二人の戦いを邪魔しようと考える者はいないだろう…………いや、この考えは良くない。気を引き締め直さなければ)
ゲイルは他の騎士や魔法使い、貴族たちの様子から、自分が警戒せずともその者たちがゼルートとローレンスの一騎打ちに割って入るとは思えなかった。
しかし、そういった油断が後々後悔する要因になるかもしれないと考え、帯を締め直した。
「ッ……すぅーーー、はぁーーーーー」
ディスタール王国の者たちが絶望で俯く中、ローレンスだけは一つ深呼吸をし、精神を整えてゼルートと向かい合った。
(勝てない……一矢報いるなどと考えるな。勝つのだ!!! この逆境から、勝利を掴み取る!!!!!)
生温い心構えでは、とても勝てる相手ではない。
そんなことは十も百も承知している。
だからこそ、ローレンスは祖国に勝利を持ち帰るために……敢えて、自分は目の前の強敵に絶対勝つというポジティブで強気な気持ちで心を埋め尽くした。
そして静寂が周囲を支配する。
最初からバチバチに戦うのかと思っていた周囲の者たちは、その光景に首を傾げた。
何故、二人は直ぐに斬り合わないのか。
少なくともゼルートはローレンスより実力的に上かもしれず、ゆっくり様子を見る必要がない。
であれば……どうして、ゼルートは直ぐに動かないのか。
その理由が解らず、何人かは予想外にもローレンスの気迫がゼルートを押しており、ゼルートも中々容易に動ける状態ではないのか?
そう思った者たちがおり、ほんの少し……小さな希望が見え、二人の戦いが終われば即座に自分たちも動けるようにしておかなければと思った。
「…………」
だが、実際のところ気迫といった面ではローレンスの方がやや押されていた。
ゼルートは殺気や怒気といった感情は出していなかった。
逆にローレンスはバリバリ殺気を放っていたが、ゼルートは余裕でそれを受け流し……精神面では負けていると感じさせられた。
ゼルートの構えに隙も見当たらず、正直どう攻めたら良いか分からない……であれば、自ら攻めてゼルートの隙を生み出すしかない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます