少年期[821]どうせ殺すんだから
「ふぅ~~、どうも……一応挨拶した方が良いのかな。ゼルート・ゲインルートです。よろしく」
「ゼルート殿の従魔であるゲイルだ」
ディスタール王国の総大将である第三王子、フルオン・ディスタールは目の前の状況が理解出来なかった。
(な、なんなんだこいつらは)
いや、愚鈍ではないので状況は理解出来る。
だが……本能が納得出来ないでいた。
相手側にまだ子供なのに、子供らしからぬ実力を持つ冒険者がいるという情報は得ていた。
しかし、それでも所詮は子供。
傍に強い仲間がいたとしても、自分の元まで辿り着けるわけがない。
フルオンがそう思ってしまうのもおかしくない。
何故なら、これは人とモンスターの戦いではなく、国と国がぶつかり合う戦争。
数が違い過ぎる。
ゼルートが先日ダンジョンから溢れ出したモンスターと戦った時の数よりも、当然ディスタール王国の為に集まった戦力の方が多い。
だが、ゼルートからすれば数が多くても、雑魚が増えたところで意味がなく、的が増えて攻撃が当てやすいと感じるだけ。
「これは、一応戦争だから……あなたの身柄を拘束して、うちに持っていけばこっちが超有利な形で戦争を終わらせられるんだよな」
ゼルートがそう言い終えた瞬間、周囲の貴族……騎士たちが一斉に武器を抜いた。
ディスタール王国の宮廷魔術師たちも、いつでも攻撃魔法が放てるように準備。
しかしその瞬間、ゲイルが一瞬で膨大な……濃密な殺気を放った。
「ッ!!??」
「ぐっ……化け物め」
「あ、あり得ない。この、私が……」
ゲイルも目の前に並ぶ者たちが並ではないと解っているので、ゼルートの邪魔を刺せない様に全力で殺気をぶちまけた。
(……私の殺気に慄きはすれど、気を失う者はいない、か……良い者たちが揃っているじゃないか)
是非とも剣を交えたいと思ってしまうが、ここまで来れば……周囲の敵をただ潰せば良いという訳ではないと分かっているので、むやみに剣は抜かない。
「……あんたが、最後に俺の相手をしてくれるという訳か」
「そうだ。我が名はローレンス・ディスパディア。ディスタール王国、第一騎士団副団長。私が、貴殿との勝負に勝てばここで身を引いてもらいたい」
かなり無茶なことを言っている。
それはローレンスも理解しているが、それでも……そもそもここで自分だけは退くわけにはいかない。
自分との勝負に勝てば、身を引いて欲しい。
戦争には負けたというのは既に決定事項だが、王族の身柄が拘束されるか否か。
それだけで戦後の交渉が大きく変わる。
「…………良いね、良い騎士だ。ローレンスさんは、俺と一対一の勝負がお望みという事で良いんだよな」
「あぁ、そうだ。私は、貴殿との一対一の勝負を望む」
「分かった」
ゼルートはローレンスの瞳から、本気で自分との真剣勝負を……一対一の勝負を望んでいるのだと解った。
だが、ゼルートがこの場で信用したのはローレンスのみ。
他の貴族や騎士たちは信用していない。
「ゲイル、俺とローレンスさんの勝負を邪魔する奴がいれば、容赦なく斬れ」
「かしこまりました」
先程ゲイルの殺気に慄き、二人の勝負に隙を突いてゼルートを仕留めようと考えていた者は苦い表情になり、少しでも勝負の余波を食らわない様に二人から下がる。
「良く、前に出てきましたね」
「それが……騎士というものだ」
「なるほど。正しい騎士道を持ってるって訳か」
自分の国にも正しい道を持つ騎士はいるが、面倒で怠い騎士もいると思い出し、小さくため息を吐いてしまう。
「戦う直前だというのに、良くしゃべるな、貴殿は」
「いや、だって……もう直ぐ殺してしまうんですから、少しぐらい話したいなと思って」
この真剣勝負で、自分が負けるとは全く考えていない。
そんな目の前の若者の思いを耳にし、一瞬だけ怒りが沸点に到達しそうになったが……直ぐに落ち着きを取り戻した。
目の前の少年は、決して自分のことを嘗めている訳ではない。
その証拠に……抜いていた魔剣をしまい、明らかにしまった魔剣よりも上等な一振りを取り出した。
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