少年期[812]殺気までは隠せない

「悪いが、休ませるつもりは、ない!!」


「クソが!!!!」


最終局面。

両者ともそれを悟り、全力で動き、対応するが……やはり一手、セフィーレの方が速い。


(クソ、クソ、クソ、クソ、クソアマが!!! なんで斥候の俺より速いんだよ!!!)


男は双剣の技術や罠を見抜く目、そして毒の扱い。

それらの力に自信を持っていたが……最も自信がある力は脚力だった。


その脚で戦地を駆け抜け、敵の攻撃を躱し、時には全力に逃げて逃げて逃げ延びてきた。


そんな自慢の脚力で、男はセフィーレに奪われていた。


(風の魔力操作に慣れていなければ、ここまで上手く、責められなかっただろうな)


態度、言葉、目線。

全てに嫌悪感を感じたが、実際に戦って感じ取った戦力に関しては本物。


ゼルートと別れてから全力で成長していなければ、形勢は真逆だった。

だが……今回勝つのは、生をもぎ取るのは自分だ!! と意気込み、レイピアに火と風の魔力を纏う。


(結局は、才能なのかよ……)


二属性の魔力を武器に纏うという技術は非常に困難であり、Bランクの冒険者でも習得は難しい。


(だからって、このまま死ねるか!!!!)


男は自分もろともセフィーレを道連れにしようと、アイテムポーチの中から偶々手に入れることが出来たAランクモンスターの毒が入った瓶を取り出そうとした。


「終わりだ!!!」


嫌な予感がしたセフィーレはゼルートから学んだ技術……体に纏う魔力の一部を放出して加速。

これを風の魔力を使って行い、男がアイテムポーチに手を伸ばしきる前に熱く鋭い刃が体を斬り裂いた。


「く、そ……が」


双剣使いは最後までセフィーレを睨みつけたまま……斬り裂かれた体は崩れ落ちた。


「ふぅ……ゾッとした原因はこれか。戦場で剥ぎ取りを行うのは少々よろしくないが……一応これだけは回収しておくか」


ゾッとした原因であるマジックポーチを回収しようとした瞬間……一人の双剣使いと同じ斥候が周囲から飛び出した。


(ビックチャンス到来だ!!! これは……貰った!!!)


飛び出した男は双剣使いの男ほど強くはないが、それでもCランクの冒険者。


一仕事を終えたセフィーレを狙える実力はある。

加えて手に持つ刃には麻痺毒を塗っており、急所を外しても直ぐに殺せる算段。


足音と気配も完全に消しており、まさに最高の奇襲……であることに間違いはなかったが、公爵家の令嬢という大金星を殺せる喜び。

そして相手を確実に殺すという殺気までは隠せなかった。


「はっ!!!!」


「ぶべら……」


セフィーレは万が一を予想しており、双剣使い両断したレイピアの刃から火と風魔力はそのまま纏わせており、体勢が不十分な状態から放った突きでも、防御を意識していない者を貫くのは容易だった。


「上手く当てられたようだな」


火と風の刺突は勢い良く伸び、そのまま男の顔を貫き、一瞬で命を奪い取った。


「セフィーレ様!! ご無事ですか!!!」


「あぁ、万が一を考えておいて良かった」


ハルトの心配に答えながらも、ゾクッとした原因のマジックポーチはしっかりと回収。


「セフィーレ様~~、あんまり一人で突っ走らないでくださいよ。こいつ、どう考えても俺たちで倒す様な相手だたじゃないですか」


「すまないな、ソブル。しかし、あまり前に戦力を裂きすぎれば、他の者たちを守る戦力が足りなくなるだろ」


「いや、それはそうなんですけど……まぁ、今回のことはもう良いですよ」


これ以上押し問答しても仕方ないと思い、とりあえず突っ走り癖を指摘するのは止めた。


「とりあえず、良い感じに慄いてくれてるんで、軽く攻めながらも回復を優先しましょう」


「そうだな」


Bランクの冒険者がやられ、会心のタイミングで奇襲を仕掛けたCランクの冒険者もあっさりと打ち取られた。

その現状に周囲の兵士や同業者たちも徐々にクラン、ブレスに恐れを感じ始めた。

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