少年期[811]神経ガリガリ

「おらっ!!!」


先に駆け出したのはBランク冒険者の双剣使い。


既に双剣には魔力が纏われており、強化系のスキルも使用済み。

セフィーレを見下す……制の対象として見ている反面、その実力は認めていた。


Bランクの……一部の者にしか辿り着けない場所に到達できた自分でも、本気でやらなければやられる。

その判断は間違いなかった。


「なるほど、力は、それなりにあるよう、だな」


後ろに下がることはなく、セフィーレもスキルやらマジックアイテムやらを使用し、レイピアに魔力を纏って対応。


手数としては双剣を使うBランクの男の方が多いが、ゼルートと別れてから防御や回避の訓練にも力を入れ、見事に双剣による連撃を捌いている。


「はっはっは!! 中々やるじゃねぇか!!!」


「実力がなければ、冒険者の道など、進まない」


「なるほど、そりゃ心理だな!!!」


余裕な表情でセフィーレを攻め続ける双剣使いだが、戦いが始まってから数分ほど経つと……徐々にその顔から余裕が消えていった。


(こいつ、砂を利用した目つぶしや、至近距離からの投擲、双剣の毒攻撃を全部対処しやがる……どういった反応速度なんだよ)


強いのは本能的に解っていた。

実際に刃を交え、その強さを身に染みて理解した。


自分とは違い、才能があり……この先さらに経験を積めば、いずれ超えられてしまうと悟った。

しかし、現時点で力量に大きな差があるとは思えない。


そして強いとはいえ公爵家の令嬢……騎士が使わないような攻撃には対処出来ない。

そう思っていたが、それらをことごとく潰された。


(事前に学んでおいて、良かった。実戦でいきなり使われては、どうなっていたことか)


セフィーレは目の前の男と自分を比べ、総合的な力量に大きな差があるとは思っていない。

ゼルートの様に世間一般的には強者である存在を、一瞬だけ力を開放して瞬殺する……なんてことはまだ出来ない。


そして冒険者になってから専門の斥候たちから、騎士が使わないような攻撃方法を聞くまで、耳にしていなければ実戦で反応出来ない攻撃ばかりだった。


それらの攻撃方法を耳にした時、やや卑怯と感じたが……自分が踏み入った世界は、そういう世界なのだと思い返し、そういった攻撃方法もあるのだと納得。


冒険者としての活動で盗賊を討伐することもあり、そこでその知識が活かされることになった。

かなりギリギリの戦いとなったが、それでもその戦闘で一皮むけた。


その経験もあり、今回の戦闘では虚を突く攻撃に対し、難無く反応することが出来た。


「チッ!!! 未来でも見えてんのかよ!!!」


「生憎、そんな希少スキルやマジックアイテムは持っていない」


「ならなんで、てめぇはそんな余裕なんだよ!!」


「さぁ、な。経験、ではないか」


お互いにまだ決定的なダメージは与えられていない。


しかしセフィーレのレイピアは何度か双剣使いの肌を斬り裂いていた。

ただ、一見無傷に見えるセフィーレも精神面ではそれなりに削れている。


男が毒属性の双剣を使っており、刃から毒の放出や属の斬撃を放つことが出来、一瞬の隙を突かれると一気に形勢が逆転してしまう。


それを即座に理解したからこそ、冷静に……落ち着いて戦わなければならない。


(盗賊の頭目との戦いより、神経を削るな)


双剣使いとの戦いに、余裕など全くない。

戦争という戦場ではあまりない……他の者が乱入してこないという状況に少し感謝していた。


いきなり他者が乱入してきた場合、それらと双剣使いの攻撃を捌ける自信はない。


「くそ……ぷはーー、割に合わない相手を選んじまったな」


一度距離を取り、アイテムポーチから取り出した魔力回復ポーションで魔力を補給。

その隙を逃さずファイヤーランスを詠唱破棄で唱えたセフィーレだが、双剣使いは毒属性の双剣を十字に斬り、毒の斬撃を放って相殺。


「今更後悔しても遅い」


「ッ!? ちょっとは休ませろよ!!!」


ギリギリで魔力の回復に成功した双剣使いだが、セフィーレは攻撃の手を緩めず、拮抗が僅かにズレた瞬間を逃さなかった。

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