少年期[808]前に出過ぎるトップ
兵士や騎士、冒険者だけではなく……ゼルートの超攻撃的な姿勢は貴族たちの闘争心にまで火を付けた。
「まだまだ若いもんには負けられん!!!!!」
特に武闘派の貴族たちのボルテージは既にマックス。
本能的に解ってるのか、短期決戦を行うかのように全力で戦場を駆けまわる。
全員が引くことなく、貴族の当主までもが前に出ようと闘争心を燃やしている。
それはそれで良き流れではあるのだが……当主の護衛である騎士たちとしては、もう少し後ろに下がって欲しいというのが本音だった。
当主が戦死すれば、その子供か……もしくは弟が当主となるが、変わるだけで仕える者たちにとっては色々と苦労がある。
なので闘争心が昂ってしまうのは解る。
解るが、あまり前に出ないでほしいというのが本音だった。
ただ……とある女性は貴族であるが、当主ではない。
当主でないのであれば、別に前に出ても良いのでは? と思うかもしれない。
確かに戦場での功績を求めるのであれば、それが一番だろう。
だが…………周りの仲間としては、当主を護衛する騎士たちと同じく、あまり前に出てほしくないというのが本音。
「はぁぁああああああっ!!!!!」
しかしその女性は止まらない。
向かって来る敵の首を突き、心臓を焼き刺し、風刃で脚を切断。
「ったく、あんまり前に出過ぎないでくださいよ、セフィーレ様!!」
声の主はハルト・フォード。
クラン名、ブレスに所属する参謀的存在。
そしてハルトの前で敵を瞬時に仕留めていく猛者こそ……アゼレード公爵家の次女、セフィーレ。
女神とも思えるその容姿を持ちながらも……クランの中でトップでありながらも、先陣切って敵国の者たちを潰しに掛かる。
(心が燃えるとは、こういった感覚だったのか!!!!)
家の家訓により、ゼルートたちと一緒にダンジョンに潜った。
そこでのボス戦もひりつく様な緊張感があり、闘争心も燃え上がっていた。
だが、今のボルテージはその時の比ではない。
超特大遠距離魔法をぶっ放したかと思えば、一回の跳躍で最前線へと飛び出し……敵の殺意が全て自分に向けられるかもしれない。
そんな大胆な発言をかました。
その発言はしっかりとセフィーレの耳にも、心にも届いていた。
「いやぁ~~、ちょっとセフィーレ様飛ばし過ぎじゃないか?」
「ゼルート殿たちがいるのだ。今日一日で戦争は終わるだろう」
「あんな超高火力な攻撃魔法を見せられたら、そうなるのは当然だと思うけど、だからって仕える者としては、ちょっとハイペース過ぎて心配だぜ」
「……なら、止めてみるか?」
「おいおい、俺に死ねと? 勘弁してくれ」
「解っているじゃないか。少なくとも、私たちには止められない」
ソブルやカネルもゼルートたちとダンジョン攻略を行った時と比べて、確実にレベルアップしている。
セフィーレに付いて行こうと、横に立って歩けるように必死で食らいついた。
ただ、それでも今のセフィーレを止められる自信はない。
「アドルフ様か、ミーユ様なら止められるかもしれないが、今少し離れている」
「ハルトさんでも無理だよな」
「おう、無理だ無理だ。こうなったらもう、セフィーレ様が対処しきれない攻撃を、拾っていくしかない!!」
方針がサクッと決まり、セフィーレの側近とも言える者たちはセフィーレの援護をしつつも、まだ自分たちと比べて経験が足りないメンバーのカバーを行う。
そんな中、セフィーレは相変わらずテンションマックス……ではあるが、攻撃は全くといって良い程荒くない。
(……凄いな。集中力が極まっている?)
どこにどういった攻撃をすれば良いのか、瞬時に頭の中に浮かぶ。
そしてそれを実行すれば……目の前の敵が倒れていく。
もう何人斬り倒し、殺したのか分からない。
ただ……今胸の奥に感じる熱が消える気配はなく、更に燃え滾る予感しかない。
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