少年期[809]落ち着いた……けど
(心が燃え滾っているのが解る!! だが、そろそろ落ち着いてきたな)
戦場を駆けまわり始めてから数十分が経ち、セフィーレはやや落ち着きを取り戻していた。
戦争が始まった瞬間、血が沸騰していたが……それはそれ。
冷静さは吹き飛んでいなかった。
それでも自分に挑んでくる者たちを斬って斬って斬りまくっていると……徐々に自分でも落ち着きを取り戻したと解る。
(私が強くなったのか……それとも挑んでくる相手が少し弱いのか……どちらなのだろうか)
あまり気にする事でもないのだが、心が落ち着いてきた要因はそこにあった。
セフィーレの考えはどちらも正しく、ゼルートと出会ったところ比べてセフィーレは更なる高みへ到達した。
そして……まだ意識を集中させなければならない。
そんな敵と、セフィーレたちはまだ遭遇していなかった。
「セフィーレ様、不満そうな顔をしてますね。何か問題でもありましたか?」
「ハルトか……いや、敵が弱いなと思ってな」
参謀であるハルトと会話をしながらも、セフィーレは迫りくる敵をあっさりと斬り捨てる。
「セフィーレ様……もしや、強敵との戦いをお望みなのですか? 個人的には遠慮したご要望なのですが」
「ハルト、そんな嫌そうな顔をしなくても良いだろ」
「セフィーレ様が強いのは身を持って知っています。ただ、これからブレスのメンバーを増やすことを考えれば、メンバーが一人も今回の戦争で死なないのがベストです」
無茶で……我儘なことを言っている自覚はある。
ただ、これからメンバーを増やすのであればブレスにそれだけの力が、育成力があると広められるのが一番。
「そして今、奇跡的に……というのはあいつらに失礼かもしれませんが、死者が一人も出ていない。クランの参謀としては、無理に大きな功績を求めない方がよろしいかと」
「……解っているさ。私も、クランのメンバーが死ぬのは悲しい」
冒険者という職業に就いていれば、戦場に立てばいつか死んでしまうかもしれない。
それは足り前過ぎる常識だ。
ただ、それでも生き残れるに越したことはない。
(少し物足りない感はあるが、現状を維持し続けるのがハルトの言う通り、ベストか)
うずうずとした気持ちを抑えながら、自身に飛んできたアイスランスに向けて火の魔力を纏ったレイピアを突き出す。
火針はアイスランスに穴を空けた瞬間に、爆発。
アイスランスの原型は殆ど崩れ、セフィーレに届く前に落ちた。
(戦場で……一瞬で必要な魔力量を判断し、正確な突きを放つ……そして見事対処に成功か。本当にどこまで伸びるのやら)
ハルトもソブルと同じく、戦力的な意味でセフィーレの隣に立てるように必死。
ただ、その技術に現時点で追いつけるとは思えなかった。
「とはいえ、私たちもそれなりに敵を倒してきた。そろそろ向こうもある程度戦える者を送ってくるかもしれない」
「……セフィーレ様、一応お聞きしますがそうなった場合、どうなさるつもりですか」
「当然、私が前に出て戦う」
(聞いた自分がバカだったな)
解り切った答えだった。
どう考えても、セフィーレがそれ以外の答えを口にするとは思えない。
「ただ、相手の強さや数によってはハルトたちの力を借りる。そうだな……ソブルとハルトの力を借りるのが一番良いかもしれないな」
「そのメンバーが、ベストでしょう」
守りが得意なカネル、回復や補助が得意なリシアが他のメンバーたちのサポートを行いながら守る。
そして経験豊富なハルトとスピードに長けたソブルがセフィーレを援護する。
中々バランスの取れた急造メンバーと言えるだろう。
「ハルト、少しの間だけ頼む」
「了解」
セフィーレは危機を察知し、今回の戦争が始まってから消費した魔力をポーションで補給。
飲み終わり、ビンを投げ捨てると貴族令嬢に似合わない笑みを浮かべた。
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