少年期[789]殺戮者?

ゼルートとゲイルを完全に無視し、他のオルディア王国側の冒険者や兵士を相手にする。


それが頭の回る冒険者たちの判断だった。

化け物以上の力を持つゼルートとゲイルに勝てるわけがないので、他の敵さんを倒しにいく。


これは決して悪い判断ではなく、戦犯と呼ばれる行為でもない。


他の敵を潰しに行き、そこでは勿論全力相手を殺しにいく。

ゼルートとしても、逃げる敵を殺そうとまでは思わない。


これが、自分の国を滅ぼした憎き国に所属する人間たち……なんて設定であれば話は別だが、ゼルートはまだ敵国側の冒険者に大事な人を殺されたりはしていない。


そうなる可能性がある人物がいるかもしれないが……自分に襲い掛かってくる敵の数が減れば、それはそれで有難い。


なぜなら……戦争である以上、敵の大将を取ってしまえば、その時点で戦争は終了となる。

侵略戦争などであれば話は変わるが、今回の戦争は基本的に敵の大将首を取る……もしくは捕獲してしまえば、そこで戦争は終了になるので、敵の数が減れば大将がいる場所まで行きやすくなる。


ただ……国に属する兵士や騎士たちは、堂々と前に進む二人に対してどうにか進行を止めなければならない。


「ゼルート殿、冒険者達の方は始末しなくてよろしいのですか」


「ん~~~~……そこまでやるとさ、なんか殺戮者じゃん。それはちょっとイメージ的に避けたいというか……な」


「……なるほど。確かにその方がよろしいですね」


その考えは理解出来る。


なるほどなるほどと 理解出来る内容ではあるが……ゲイルはきっちりゼルートが敵国側の兵士や冒険者に向けて放った言葉を覚えている。


『死にたい奴から掛かって来い!!!!!』


そう……全力で敵に向かって吼えた。

あれは殺戮者のセリフでは無いのかと疑問に思ったが、言葉にはしなかった。


「それにさ……俺らの後に、ルウナたちも同じように跳んで来ただろ」


「えぇ、そのようですね」


「アレナはともかく……ルウナがそういった連中を見逃すと思うか?」


「……少しでも戦えそうだと思う敵がいれば、間違いなく咬みつくかと」


「だろ」


ルウナが見境ない獣だという話をしているのではない。


戦争に参加している以上、敵に殺されても文句は言えない。


「さて……ちょっとは強そうな連中がこっちに集中してくれるみたいだな」


「……ふふ、その様ですね」


戦場に参戦してから冷静な雰囲気を崩さなかったゲイルだが、格好の獲物が向こうから近づいてくると分れば……口角が上がってしまうのも無理はない。


「ゲイル、楽しみ過ぎるなよ」


「分かっています。安心してください……一刀のもとに斬り伏せますので」


「頼りにしてるぜ」


騎士や冒険者の中でも逃げれば後々面子に関わる連中が徐々に集まり、一人の子供と紅いリザードマンに意識を全集中し……一斉に遠距離攻撃が放たれた。


(これはさすがに、厳しいな!!!!)


実力者たちがほんの数秒しか時間がなかったとはいえ、全力で放った遠距離攻撃。


その数は目算で二十は超えており、その攻撃だけでAランクのモンスターを殺せる可能性は充分にある。


ゼルートは何枚も壁を展開して防ごうとしたが、それをゲイルが手で制した。


「ゲイル?」


「自分がやるので、襲撃の準備を」


「おけ」


前に出たゲイルが大きく意を吸い込み……特大の雷ブレスを放った。


そして顔を横に振り、飛んできた遠距離攻撃に当て……見事に消滅。

遠距離攻撃を放った後は、全力で近づいて接近戦で仕留めようと考えていた者はキツネにつままれた様な表情になった。


そんな表情になってしまうのも無理はないが、ゲイルも今のブレスでそれなりの魔力を消費した。

急いでゼルートが造ったポーションをがぶ飲み。


戦場でポーションを飲む行為は、場合によっては大きな隙なとなる。


それは実力者達も解っているので即座に気を取り直して自国の敵を殺そうとするが……目の前にはその隙をカバーするように構える少年がいた。


「俺の相棒を簡単に殺せると思うなよ」


そう告げると、ゼルートは先程と同じく敵の視界から消えるほどの速さで動き……全力でフロストグレイブとミスリルデフォルロッドを振るった。

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