少年期[788]逃げ場はない

肉体的なステータスでは、腕力よりも脚力が上であるゼルート。


そして……そんなゼルートの切り札である技の一つ、疾風迅雷。

風と雷の魔力を身に宿し、その速さはまさに神速となる。


同じくスピードタイプであり、反応速度も優れているルウナが初見であったとはいえ、全く反応出来なかった技。


「武器だけは、貰っとくぜ」


三人がゼルートの動きに対応する前に、ゼルートは三人の横を通り抜け……その首を落とした。


「「「……」」」


三人が弱いのではない。

Bランクの冒険者である彼らが弱い訳ではない。


ただ……本気で相手を殺す気になったゼルートが相手では、確実に実力が足りなかった。


ゼルートは三人の体が地面に倒れる前に、その手からそっと武器を抜き取った。


(……これぐらいにしとかないとな)


他にも気になる装備品はあったが、この程度で奪うのは止め……次の獲物へと意識を向けた。


「えっ……今、どうやって」


「う、嘘だろ。いくらなんでも、速過ぎるだろ」


「あの三人って、確かBランクだったろ……なのに、おかしいだろ!!!」


思わず叫びながら、目の前で起きた事実に文句を言う者が現れた。

そう文句を言いたくなるのも、無理はない。


だが、目の前て起こった一瞬の流れは……紛れもない事実。


ゼルートが三人の反応を上回る速度で動き、その首を斬り落とし、勝利した。


「おいおい、文句を言う暇があったら死ぬ気で俺に掛かって来い」


多数のウィンドアローを展開し、総射撃。

殺傷能力はそこまで高くない風の矢だが、ゼルートの風矢他の者の風矢と比べて鋭く……貫通力が高い。


中堅並みの実力があったとしても、受け方を間違えれば手痛いダメージを食らってしまう。

そして……戦争中に敵に文句を言うほど愚かな者にとっては……一瞬で命を奪う凶矢。


ゼルートの魔法は、初級であったとしても嘗めてはならない。


(あの三人の実力は決して低くなかった……ただ、残念な程に力の差があった)


戦いを楽しむ。

そう思いながら戦いに臨むゼルートであれば、もっと長い間ゼルートの前に立っていられただろう。


しかし、今のゼルートは相手が男であろうと女であろうと、全く容赦しない鬼神。


「よそ見してんじゃねぇぞ!!!!!」


「そう思うなら、声を出すな」


「グハッ!!??」


一瞬で三人の実力者を葬ったゼルートの姿に感心しているゲイルに対し、怒声を上げながら一人の冒険者が襲い掛かったが、例え敵を見ておらずとも気配は感じている。


なにより、声を上げてしまってはもろに場所を把握できてしまう。


特に秘策もなく挑んだ冒険者は、一刀のもとに葬られた。


「なんだよ……怖気づいたのか? でも、お前らに逃げ場はないぞ」


Bランクの冒険者があっさりと葬られた。

その現実を受け入れがたい者たちは多かったが、それでも直ぐにゼルートが平然と襲い掛かってくる者を次々に

仕留め……更に認識させられた。


目の前で全く呼吸を乱さずに暴れ回る子供は、全くもって歳相応の子供ではない。

子供の皮を被ったナニカなのだと……多くの者たちに絶望的なまでの恐怖を与えた。


ただ……ここは戦場。


冒険者ギルドで多々またゼルートを見つけ、喧嘩を売ろうと思ったが、自分よりも先に喧嘩を売って戦った者がボコボコにされているので引き下がる。

なんて事が出来ない状況。


勿論、絶対に逃げてはならないという訳ではないのだが……仮に逃げて生き延びたとしても、噂が広まるのは早い。


敵を目の前にして逃亡した恥さらしと言われ続ける。

冒険者であれば、一部の者からは賢明な判断だと思われるかもしれないが、兵士や騎士にはそれが出来ない。


冒険者は冒険してはならない。


冒険者という職に就いた者が早い段階で教わる教訓。

遠目からでも強者があっさりと殺された光景は見えた。


であれば……頭の回転が速い冒険者たちが取る行動は一つしかなかった。

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