少年期[787]その判断は正しかったのか

ゼルートとゲイルが最前線に跳び出し、暴れ回り始めてから五分ほどが経ち……敵国側の兵士や冒険者たちは思い知らされた。


とにかく、まずは目の前のこいつらを潰さなければ……殺さなければならない。


二人が暴れ回り始めてから、誰一人として二人に攻撃を与えられていない。

その事実が衝撃的過ぎ……オルディア王国側の兵士や冒険者、騎士たちにも注意しなければならないというのは解っていても、まずは二人を潰す……殺す。


それが出来なければ、少なくともゼルートとゲイルの激進は止めなければならない。

といった思いが強くなり、何がなんでも二人を潰しに掛かるが……大して強くない連中を何人、何十人と投入したところで、意味がない。


文字通り、紙切れのように斬り裂かれてしまうのがオチ。

であれば……体力切れになるのを待つ?


それは確かに一つの手段かもしれない。

決して悪くはない戦法だが、モンスター……従魔であるゲイルは、スタミナに関しては人間よりも圧倒的に多い。


戦争に参加してまだ五分程度しか経っていないが、その五分間で全力を出す機会は一度もなく、スタミナはせいぜい一ミリ減った程度。

まだまだ余裕過ぎるほど体力は有り余っている。


そんなゲイルに対し、ゼルートは最初の特大広域魔法を三つ放ったことで、大量の魔力を消費したのでそれなりに疲労はしていた。

ただ、自分のペースで敵を殲滅しているので、全く持って今のところ体力切れする気配はない。


「このガキは、俺たちがやる」


「そうした方が良さそうね」


「あんたらは下がってろ」


敵国側にゼルートとゲイルのヤバさが伝わり始めたところで、三人の冒険者が登場。


「ゼルート殿……手は必要ですか?」


「いや、必要ない。俺をご指名みたいだから、邪魔が入らないように周りを潰しててくれ」


「分かりました」


鑑定眼を使わなくても解る。

目の前の三人はそれなりに戦える実力を持っている。


(ぱっと見た感じ、全員がさっき戦った兵士長より強いよな)


大剣を持つオラオライケメンな男。

レイピアを綺麗な所作で扱う、金髪美女系な剣士。

やや大き目な双剣を手に持つワイルドな空気漏れ漏れな虎人族の男。


三人ともBランクの冒険者並みの実力を持ってると判断し……ゼルートのテンションが若干上がる。


そしてその感覚は正しく、三人ともBランクの冒険者であり、同じパーティーのメンバー。

常に攻めの姿勢を貫く有望株であり……基本的には一人を三人で叩くような真似はしたくないという心は持っているが、遠目からでも圧倒的な実力で同じ国の兵士や冒険者たちを殺していく強者となれば、そんなしょうもないプライドは全てなければならない。


例え、見た目が完全にまだまだ子供であったとしても、容赦はしない……絶対に今ここで殺す。

そんな思いが体が溢れており、既にスキルやマジックアイテムによる強化を行っている。


(……あ~~~~。こういうところ、俺の良くない部分だよな)


三人の実力者が自分をマジで殺しに来ている。

そんな普通に考えれば絶体絶命の状況の中、やはり頭のネジが二、三本外れているゼルートはその状況を少し楽しもうと思ってしまっていた。


普段であれば……その辺りはゼルートの自由にして良い場面。

だが、今は国と国とか戦争を行っている状況。


それを考えれば、一刻も早く敵国側の実力者は潰さなければならない。

当たり前な状況を自覚した瞬間……ゼルートの表情から感情が一瞬で、ストンっと消えた。


「「「ッ!!??」」」


元からヤバすぎる子供だというのは解っており、警戒心は限界まで引き上げていた。

しかし、それでは生温いと直感で感じ取り、警戒心を限界突破。


こちらから攻めるのは危険だと思い、パーティーの攻めの姿勢を曲げ……まずは一手、ゼルートの速さを見極めることにした。


「疾風迅雷」


ただ……その判断が正しかったのか否か、それは直ぐに身をもって知った。

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