少年期[752]太っ腹すぎる

数日後、ゼルートたちはドーウルスの領主、バルスたち合流。


「久しぶりだな、グレイス」


「はっはっは!! 本当に久しぶりだぜ、ガレン! 元気にしてたか」


「あぁ、元気にしてたさ。頼りになる訓練相手がいたからね」


ガレンは元パーティーメンバーであり、親友のグレイスとの再会を喜び、妻であるレミアもコーネリアと再開に華を咲かせていた。


「この間ぶりだね、ゼルート君」


「あぁ、そうだな」


ゼルートはグレイスとコーネリアの娘であるミシェルを前にして、あまり上手く笑えてない自覚があった。


(やっぱり、ミルシェも参加するんだな……まぁ、そこは個人の意思を尊重するところだよな)


そして視界にはミシェルだけではなく、ダンの姿があった。


(……俺に敵意を向けてないあたり、少しあの時から成長してるっぽいな)


単純な態度だけではなく、鑑定を使わずとも肉体的に成長しているのが分かる。


久しぶりに再会するまで、ゼルートのダンに対する印象は力はあるが、自分勝手で周りが見えていない厄介な子供だった。


(ただ、二人とも戦争に参加して絶対に生き残る保証はないけどな)


今回の戦争中、二人はグレイスとコーネリアと離れて戦うことに決まった。

位置的には直ぐに敵と戦うことがなく、上手くいけばあまり強敵と戦わずに済む可能性はある。


「よう、ゼルート! 相変わらずぶっ飛んだ魔法を使ってるな」


「そりゃどうも。ガンツも……変わらず調子良さそうだな」


「ふふ、分かるか! 空元気じゃなくて、マジで調子が良いんだよ!!」


強がりや嘘ではなく、心の底から感じた感覚。

それが悪い訳ではないが、ゼルートからすれば少し心配に思えた。


「……調子が良いのは悪くないけど、あんまり前に前に出過ぎるとうっかり死ぬぞ。そういう時が一番死にやすいかもしれないだろ」


「おっと、確かにそうだな。気を付けるぜ」


ガンツもそれなりに修羅場を乗り越えてきた冒険者。

ゼルートの言葉が実際に起りえる例であることは知っている。


「にしてもよ……お前の親父さんとこの兵士や騎士たちさ、随分と良い装備を身に着けてるな」


冒険者歴が長いガンツは兵士や騎士たちが装備している武器などの質の高さを一目で見抜いた。


(ガンツレベルの人には直ぐ解るか。てか、結構な人がチラチラと見てるな……明らかに高品質って分かるような武器もあるし、当然と言えば当然か)


ガンツと同じ冒険者だけではなく、バルスに仕える兵士たちも同じくチラチラと羨ましそうに見ていた。


「俺が好きに使って良いって渡したからな」


「…………マジ?」


「あぁ、マジだよ。このホーリーパレスってダンジョンに潜ったって話はしたよな」


「お、おぅ。覚えてるぜ」


「兵士や騎士たちが身に着けてるのは、そこで手に入れた宝箱に入っていた武器だよ」


まさかの内容を聞き、ガンツは再び固まってしまう。

そしてゼルートの言葉が聞こえ、内容を把握出来た者も同じく固まった。


「……ゼルート。それは……ぶっ飛んでないか?」


ダンジョンで手に入れた報酬を身につけるや売るではなく、誰かに渡す。

ゼルートの口ぶりからして、兵士や騎士たちに売ったとは思えない。


文字通り、渡した……無償で渡したとしか思えず、ガンツのその考えは正しかった。


「確かにぶっ飛んでるというか……普通はそんなことしないだろうな。でも、別に金には困ってないし、特に新しい武器が欲しいって気分でもなかった。てか、ホーリーパレスではこいつが手に入ったしな」


指輪状にしているミスリルデフォルロッドを棒状に変形させる。


指輪が棒に変形する武器を見て、ガンツは一発で材質を言い当てた。


「それは……ミスリルの武器か。なるほどな、他の武器は私ても良い……と、思うかもな」


冒険者にとって、ミスリル製の武器を装備するのは一種のステータス。

ただ……もう一度ガレンに仕える兵士や騎士たちの武器を見ると、ミスリルデフォルロッドより高品質かもしれないと感じる武器があった。


(ドウガンと戦う様子を観た時からぶっ飛んでるとは思ってたが……ははは、いくらなんでも太っ腹すぎるぜ)


冒険者という職業に就いてることに全く不満は無いが、この時ばかりはガレンに仕える騎士たちが心の底から羨ましいと思ってしまった。

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