少年期[735]本気で怒ってくれて有難う
ドーウルスに寄った日の夜、ゼルートは夕食を食べ終わった後、グレイスに誘われてアルゼルガの時と同じく洒落たバーにやって来た。
「ゼルート……なんか、こういう店に来るの慣れたって雰囲気だな」
「え、そうですか? 知り合いに誘われてきたことはありますけど、別にそんなしょっちゅう来てませんよ」
バーの雰囲気は嫌いではないが、それでも数日に一度来るほど酒飲みではない。
「そうか……確かにそんな性格じゃないもんな」
「お酒は美味しいと思いますけどね。あっ、そういえば……ダンの奴はどうしてるんですか」
冒険者ギルドの訓練場に寄った時、グレイスコーネリアとミルシェはいた。
だが、長男であるダンの姿はなかった。
「今日は一人で討伐依頼を受けてたはずだ」
「一人で、ですか……大丈夫なんですか?」
ゼルート程ではないが、ダンもルーキーの中では頭一つ二つ抜けた存在。
それはゼルートも知っているが、やはり一人で討伐依頼を受けるのは危ないのではと思ってしまう。
「ちゃんと依頼の難易度は考えて受けてるさ。まっ、ここ最近は依頼を受けることよりも訓練に力を入れてるけどな」
「そうなんですね」
ゼルートがダンに会ったのは王都の冒険者学校から生徒の護衛依頼を受けた時だった。
最初は上手くいっていたが、途中でダンが功績を焦る……ゼルートに負けてたまるかという意思が前に出過ぎてしまい、やらかしてしまったという件があった。
(あの時は久しぶりに怒鳴ったというか、説教したというか………まぁ、俺らしくないことをしたよな)
冒険者たるものこうであれ!!! などと説教垂れられるほど経歴は長くない。
しかしそれでも、あの時のダンの行動は見過ごせるものではなかった。
「ゼルートが説教してくれたのが効いてると思うんだよ」
「そ、そうですか? 俺よりグレイスさんやコーネリアさんの説教の方が効くと思いますけど」
「そりゃあいつが何をしたのか知った後、今までで一番怒鳴った。勿論、拳骨も落とした」
「それは……ご愁傷様で」
頭に拳骨を落とす。
それは親が子を叱る時の定番行為。
だが、この世界ではゼルートの前世と比べて力の差が信じられないほど離れている。
(ダンもそれなりのレベルだろうから、ある程度の防御力はあると思うが……グレイスさんが本気で拳骨を落とせば頭潰れちゃうよな)
Aランク冒険者……しかもパワータイプのグレイスがDランク冒険者のダンの頭に本気の拳骨を落とせば、間違いなく潰れる。
しかしそこはグレイスも親になって十何年。
拳骨の力加減は良く解っている。
「コーネリアもこう……淡々と説教をしていた」
「淡々と……」
コーネリアが淡々と説教する光景を頭に浮かべ、思わず身震いした。
(ド迫力で説教されるのは勿論怖いけど、淡々とした雰囲気で説教されるのもそれはそれで怖いよな……淡々とだとしても、怒ってるんだから圧はあるだろうし)
転生してからがっつり怒られる回数は確実に減ったゼルートだが、大人に説教される怖さは記憶に残っている。
「俺やコーネリアの説教も確かに効いたかもしれないが、やっぱり個人的にはゼルートの説教が効いた筈だ。歳が近い同じ冒険者から……絶対に負けたくないと思っている奴から思いっきり正論をぶちかまされるのって、結構きついというか、心にグサッと来ると思うぜ」
「そう、なんですけね」
ゼルートがチラッと店員の方に顔を向けると、店員は同意するように苦笑いしながら頷いた。
「ゼルートがダンの立場だったらどうよ。反発したい気持ちはあれど、何にも言い返せなくなるほどメンタルやられそうじゃないか」
「えっと……そうですね。多分ボロボロになるかと」
自分の立場はダンに置き換えて想像してしまったため、思っていた以上にダメージを食らうことになった。
「だからさ、ゼルートには本当に感謝してるんだよ。ダンを本気で怒ってくれて、ありがとな」
「ど、どういたしまして」
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