少年期[736]目指せ魔法砲台
グレイスから息子を叱ってくれて有難うという言葉を終わり、バーでの呑みは終了……とはならず、それからもカクテルをチビチビと飲みながら二人は会話に華を咲かせていた。
「やっぱりホーリーパレスは闇属性の効果が付与されている武器があると攻略しやすいんだよな」
「光や聖属性の魔物には有効打ですからね……でも、偶にデスナイトみたいな魔物も出現するのを考えると、闇属性の武器だけあれば良いってわけでもないですよね」
会話の内容は決して穏やかではないが、冒険者らしいものではある。
「あぁ、そういえばそうだったな。デスナイトはそこら辺の騎士より強いからな。倒すのに苦労したぜ」
当時は現在ほど強くなく、グレイス達でもBランクのデスナイトは容易に倒せる相手ではなかった。
「けどよ、ゼルートは闇属性の魔法も使えるんだろ。それならやっぱりホーリーパレスは攻略しやすいダンジョンだったんじゃねぇか?」
「そうですね……属性的には有利に戦える相手がそれなりにいたと思います」
決して魔物を倒すだけがダンジョン攻略ではないが、中層から下層に生息する光や聖属性の魔物相手に溜めなしで闇魔法をバンバン使えるゼルートにとっては倒しやすい魔物が多いダンジョンだといえる。
(それでも、コロシアムタイプの転移トラップに引っ掛かったら普通は属性もクソもないんだよな)
コロシアムで遭遇した魔物の中には風属性のヒポグリフや物理攻撃得意の成長したサイクロプス。
そして真紅のミノタウロスに毒属性を持つキングヴェノムサーペント。
優位な属性の効果が付与された武器を一つ持っている程度では、到底攻略出来ない。
「ミルシェもいずれゼルートみたいになれると思うか?」
「ど、どうでしょうか? 魔法の腕は確かにあると思いますけど」
「あれだぜ、魔法に関してだけど。身体能力や体術、武器術がゼルートに並べるとは思ってねぇよ」
Aランク冒険者のグレイスですら、ゼルートにそういった面で勝てるとは思っていない。
そしてミルシェが魔法に特化したタイプだということも解っている。
だが、親の贔屓目があるかもしれないがミルシェは魔法使いとして大成する。
そんな予感をしていた。
「でもよ、魔法に関しては母親のコーネリアと同様か……攻撃面に関しては上をいくんじゃないかって思ってるんだよ」
「……無詠唱で魔法を使えるようになったようですし、一人でも戦えるようになりたいのであれば機動力だけでもなんとかすれば、コーネリアさんを越えられるかもしれませんね」
動く魔法砲台。
それが出来るようになれば、ミルシェが一流の魔法使いになれる日も遠くない。
それがゼルートの個人的な考えだった。
「それは……あれか。別に脚力だけを重点的に鍛える以外の方法でもありなんだよな」
「勿論です。魔力操作や強化魔法……マジックアイテムを使った移動方法でも問題ありません。ただ、戦場で動き回りながら攻撃するようになると、周囲の状況把握能力も必要になりますけどね」
「確かに戦況を把握出来ねぇと、うっかり木にぶつかったり別の魔物の攻撃を思いっきり食らったりしそうだな」
ゼルートの考えが実現出来れば、驚異の魔法砲台が完成するのは間違いない。
しかし、今のミルシェが理想の魔法砲台になるにはまだまだ課題がある。
「そういえば、戦争ではどういった感じに戦うんだ?」
「最初に魔法をぶっ放してからは、武器や体術メインで戦おうと思ってます」
予定通り要望が通れば、攻撃魔法の雨を降らせようと考えている。
そして特大攻撃魔法を撃ち終われば、フロストグレイブとミスリルデフォルロッドを使って敵陣で暴れ回る。
それがゼルートの戦闘プランだった。
「向こうにゼルートが悪獣を倒したって情報を伝わってるだろうから、重点的に狙われるだろうな」
「ん~~~~……案外そうでもないかもしれませんよ。だって、ぱっと見じゃ俺が悪獣とソロでバチバチに戦えるようには思えないじゃないですか」
自分で言っていて少し悲しいところはあるが、話だけ聞けばサラッと信じられる内容ではない。
「そりゃそうかもしれねぇけど……それを信じられなきゃ、今回の戦争は向こう色々と戦力を失ってほぼこちらの圧勝で終わりそうだな」
ゼルートの国側が全く被害を受けずに勝つということはあり得ないが、それでもグレイスの言葉通り……悪獣を倒したことで爆発的に広まった噂を信じなければ、一方的に隣国が大ダメージを受けるのは間違いなかった。
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