少年期[734]必要な生贄

「ゼルート、お前が強いのは重々承知しているが、もう少し考えて動くようにするんだ」


「はい、分かりました」


本日三度目の小言を食らい、ゼルートはやや疲れた表情をしていた。


(まぁ、これだけ心配してくれる人がいることを有難いと思わないと駄目だよな)


小言をくれた人たちは全員ゼルートが他の冒険者と比べて隔絶した強さを持っているのは解っている。

だが、それと同時に権力の強さも分かっているからこそ、あまり厄介な連中と衝突してほしくないと思っている。


「いらん世話かもしれないが、それでも冒険者として活動するなら大手のクランとぶつからないに越したことはない」


「今後はもう少し気を付けて行動します」


バルスがゼルートと話しているので全てゼルートが返答しているが、一番最初の衝突しかけた原因にアレナが関わっていたので、顔には出していないが自分ももう少し上手く対応しようと決めた。


「そうしてくれると嬉しい。お前が銀獅子の皇と衝突しかけたと聞いて寿命が縮まったぞ」


話が耳に入った瞬間、バルスは食べていた軽食が喉に詰まりそうになってしまった。

それほどまでにゼルートが大手のクランとぶつかりそうになったという話は衝撃的な内容なのだ。


「でも、最終的には仲良く? なったんで大丈夫でしたよ」


「結果そうかもしれないが……まぁいい、これ以上話しても仕方ないな」


ゼルートもなるべく面倒事は話し合いで解決しようと思い、その努力はしている。

一応、銀獅子の皇との件も話し合い? で終わらせることが出来た。


(話し合いという名の脅迫だったかもしれないが、がっつり衝突しない為にはああいうのも必要だよな)


決して脅迫して話を有利に進めるのが好きというわけではない。


「それで戦争の舞台となる場所に行く際、途中で合流するわけだが……現地についてから他の連中と衝突しない自信はあるか」


「…………正直なところ、ないですね」


嘘をついてもしかたないので、正直にそれは多分無理だと答えた。


ゼルートの言葉を聞き、バルスもしょうがないなという表情になる。

一応訊きはしたが、何も起こらない筈がないと思っていた。


「勿論、自分から喧嘩を売るような真似はしませんよ」


「うむ、それは分かっている」


少々やんちゃな性格をしているが、何もしていない相手に危害を加えるような者でないということはバルスも理解している。


「ですが……多分、俺に絡んでくる連中は多少なりともいるかと。それが冒険者なのか騎士なの、それともどこぞの坊ちゃん貴族なのかは分かりませんが」


坊ちゃん貴族という言葉で、ゼルートはローガスを思い出した。


(そういえばあの時、色々と事情があったとはいえ本当に殺してしまったよな……本当に何も起こらなければそれが一番良いんだけど……やっぱり無理だよな)


レイリアが面倒な同級生に狙われた時も、なんやかんやで裏の連中を使って制裁を加えた。

それ以外にも過去には三人の令息を決闘でボコボコにして……最終的には貴族という地位から落とした。


そんな経歴を持つゼルートだが、残念ながら世の中には実際にゼルートの恐ろしさを体験しなければどれだけ怒らせてはならない人物なのか理解出来ない者がいる。


「一応、ギルドマスターのシーリアスさんからは喧嘩売ってきた連中は死なない程度にボコボコにしても良いという許可はもらいました」


「……そこは大事だな。ゼルートが戦争に参加するとしないとでは勝率が大きく変わる。お前が快適に動くためにも、やはり見せしめは必要か……仕方ないか」


何が起こってもゼルートは基本的に今回の戦争に参加しようと思っているが、辺境伯という立場を持つバルスとしては万が一にも抜けられては困る存在。


バルスも面倒事は避けたいと思っているが、必ず勝つために生贄は必要だと納得してしまった。

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