少年期[729]可能性あり
「あれはルウナと……グレイスさんじゃないか」
そう、ゼルートの父であるガレンの友人であり冒険者時代、同じパーティーメンバーだったグレイス。
現在は魔導の戦斧というパーティーのリーダーであり、Aランクの一級冒険者だ。
そんなプロ中のプロがルウナとバチバチに模擬戦を行っていた。
(獲物は木製の物を使ってるっぽいけど……ちゃんと模擬戦ってのを理解してるのか?)
現在はDランク……から、Cランクに昇格したルウナだが、実力的にはAランククラスのアレナ。
そして若い頃からAランクの冒険者として活躍し続けているグレイス。
両者の戦いに周囲の冒険者は自分たちの鍛錬を忘れ、歓声を上げながら夢中で観ている。
「ようゼルート、久しぶりじゃないか!!!!」
「その声は……ガンツじゃないか、久しぶりだな……ちょっと痩せたか?」
ゼルートに声を掛けた人物はゼルートたちのDランク昇格試験を担当した先輩冒険者のガンツ。
「はは、この前偶々二十近い魔物と遭遇しちまってな。その時のストレスとかでちょっと痩せたかもしれないな」
できればガンツとしてはその状況から逃げたかったが、そう簡単に逃げられない状態だったこともあり、倒すという選択肢しかなかった。
そして危機的状況を乗り越えた結果、数キロほど体重が減ってしまった。
(……もしかしたら、いずれBランクに昇格するかもしれないな)
ガンツは冒険者としてはベテランの域に入っているが、今でも第一線で活躍している。
それなりに自己鍛錬も行う派であり、少しずつではあるが成長しているのは間違いない。
ゼルートの感覚としては、このまま行けばBランクに昇格するのも夢ではないと思った。
「ガンツ、そのまま頑張れよ」
「お、おう。そりゃまだまだ頑張れる歳だし頑張るけどよ……どうしたんだ?」
「個人的にだけど、そのまま頑張り続ければBランクに上がれると思ってな」
「えっ……マジか?」
「おう、マジだよ。まぁ、個人的な感想ではあるけどな。それでも、Cランクの魔物に襲われて生き残ったんだ。可能性としては十分にあるだろ」
冒険者という職業の中で、Dランクになれば新人からの卒業。
そしてCランクになれば一人前というラインがあり、Cランクになればそれなりの収入が入ってくるので十分成功者と言える。
だが、Bランクに昇格すれば受けた依頼で懐に入って来る金額もかなり変わってくる。
また……ギルドからの対応も当然、変わってきて良いこと尽くし。
(一人じゃなく、パーティー単位で群れを倒したんだろうけど、このまま四肢が欠損するような不運が起こらなければ、Bランクにはなれるだろ)
人は魔物を倒せば倒すだけ、レベルが……身体能力や魔力の総量が上昇する。
そういった恩恵もあり、ガンツが上級冒険者のラインに食い込むのも夢ではない。
「そ、そうか……ゼルートにそう言われると、本当に可能性があるように思えるな」
「別にステータスを視たわけじゃないけど、このまま頑張ってたらいけると思うぞ。ただ、焦って死ぬような真似はするなよ」
「はは。そこは俺だってプロだ。そういったラインは見極められるさ」
そう言って平静を予想が、ガンツの心の中は今まで以上に昂っていた。
(そうだ、ゼルートの言う通り焦って死んだら意味がない。落ち着け、落ち着け……目の前に餌がぶら下がっても、蛮勇を発揮したら駄目だ)
冒険者として、上級冒険者と呼ばれるBランクになることは多くの冒険者たちの夢であり目標。
そして大きなステータスとなる。
親しいギルドの職員からその可能性があると言われ、一回り以上離れた後輩ではあるが偉大な冒険者であるゼルートからも可能性があると言われて胸が昂らない訳がなかった。
「そうか……そうよな。にしても、皆マジで盛り上がってるな」
「そりゃこれだけ良い模擬戦は中々見られないからな。それにほら、後ろでゼルートの従魔の……ラル、だったか? と、ミルシェちゃんが魔法合戦をしてるだろ」
「あっ、ほんとだ!」
奥の方ではこれまた見知った顔であるグレイスの娘、ミルシェがラルを相手に必死で魔法を放っていた。
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