少年期[730]そこで止まらない

「周りの奴らはどっちが勝つか駆けるのかに必死だぜ」


「相変わらずだな………まぁ、ミシェルがラルに勝つのは無理だろうな」


「だろうな。でもよ、ラルはあれだろ……元はドラゴンなんだろ」


「そうだぞ。雷属性のドラゴンだ」


付け加えるならば、雷竜帝の娘。

しかしそれを言えば驚かせてしまうので、そこまで言わなかった。


「物理攻撃が得意のドラゴンがあそこまで魔法を使えるってのは……ちょっと卑怯じゃねぇか?」


もっと卑怯な存在が直ぐ隣にいるが、それでもガンツから見てラルの魔法の腕の高さはやはり卑怯と言わざるを得ないレベル。


「ドラゴンの種族にもよると思うが、確かにあそこまで魔法が使えると卑怯だと思われても仕方ないかもな。でも、ミシェルも腕が上がってるよな。完全に無詠唱を使いこなしてるし」


「魔法使いとして、ゼルートに追いつきたくて必死なんじゃねぇのか?」


「えっ、そうなのか?」


「真相は知らねぇけど、お前と知り合ったルーキーたちは皆活発に活動してるぞ」


全ての使用可能魔法を無詠唱で扱えはしないが、それでもラルと無詠唱の魔法合戦が出来るほどまでに成長していた。


その成長にはガンツの言葉通り、ゼルートとの出合いがモロ影響していたる。


(とんでもない同期のルーキーに出会ったら自信を無くして腐るか、負けてられないと上を向いて前に進むかのどっちかだが……ゼルートの性格もあって珍しく全員前を向いてるんだよな)


ガンツは面倒見の良い先輩冒険者であり、よく後輩と絡むことがある。

話の中でゼルートの話題が出ても、卑屈になったり悪態を突くことなく、普段通りの表情で話しを続ける。


ゼルートは普通に接して来る相手には普通に接するので、同期たちにとって基本的に嫌な才能マンという印象にはならない。


(あいつも……今のところは真面目に活動してるしな)


二人がルウナ達の模擬戦を観戦してると、ミシェルが魔力切れ寸前にまで追い込まれてしまい、模擬戦はラルの勝ちとなった。


「あぁ~~~、やっぱりラルが勝ったか」


「そりゃラルだからな。でも、ミシェルも結構善戦してたと思うぞ」


「最近は杖術も頑張ってるらしいぞ」


「へぇ~~、本当に上を目指そうって頑張ってるんだな」


「いつまでもグレイスさんとコーネリアにおんぶにだっこってのは嫌だろうからな……ところでよ、あっちはそろそろ止めた方が良いんじゃねぇか」


「そう、だな…………うん、確かにそろそろ止めた方が良さそうだな」


ラルとミルシェの模擬戦はお互いに大きな怪我を負うことなく、無事に終わった。


だが、ルウナとグレイスは未だに模擬戦を続けている。

そろそろ二人とも体力が尽きても良い頃間が、両者ともそんなやわな鍛え方はしていない。


(二人とも上手く戦ってくれてるけど、ちょっと目が本気になってきてるな)


周囲で観戦している冒険者たちに被害が及ばないように、二人は注意しながら戦っている。

偶に斬撃などが飛んでしまうことがあるが、アレナが全て対処していた。


(ルウナとグレイスさんも模擬戦ということを忘れてないかしら)


審判兼、攻撃の処理係を行っているアレナはさすがにそろそろそろ模擬戦を止めようかと考えていたが、既に二人の戦いは苛烈した状態。


元Aランク冒険者のアレナでも間に割って入るのは少々勇気がいる。


(二人とも血の気が多い部類だし……仕方ないわね)


少しの勇気を振り絞り、二人の間に割って入って模擬戦を止めようと思った瞬間、二人の木製武器がぶつかり合い、破損。


(あら、丁度良いタイミングね。これでもう模擬戦は終わり……って、なんでそこで止まらないのよ)


ギルドに置かれている木製の武器を使って模擬戦を行っていたが、それが同じタイミングで破損。

普通ならここで両者とも模擬戦を止めるのだが……ルウナとグレイスも体術はいける口。


ここからは素手での殴り合い……と二人が気合を入れなおしたタイミングで、グレイスの妻であるコーネリアが力強く杖の先で地面を叩いた。


「二人とも、そこまでにしてください。でないと……解りますよね」


「「は、はい」」


どうされてしまうとは伝えられてないが、コーネリアを怒らせるのは不味いと本能的に感じ取った二人は振り上げていた拳を収めた。

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