少年期[726]話は届いている

ギルドマスターの部屋に入ったゼルートはソファーに座るように促され、ギルドマスターが直々に淹れた紅茶を口に運ぶ。


(……美味)


特別舌が肥えたりはしていないが、それでもドーウルスのギルドマスター……シーリアスが淹れた紅茶は率直に美味いと感じた。


(紅茶とか普通は秘書とかが淹れると思うんだけど……まぁ、普通にギルドマスターの趣味なのかもしれないな)


執事やメイド、秘書でなくとも美味い紅茶を淹れるのが趣味という者はそれなりにいる。

シーリアスもそのうちの一人。


「どうかしら」


「美味しいです」


「それは良かったわ」


シーリアスはギルドマスターの中では珍しく、レベルが高い者が多いエルフの女性。

田舎者が見れば、シーリアスの美しさを直視出来ずに目を背ける。

もしくはメデューサの眼を見てしまったかのように、固まってしまう。


田舎者ではなくとも、多くの男性がシーリアスと対面すればその美しさに息を吞む。

それは男性だけではなく、女性の中にもその美貌に圧倒されてしまう者もいるのだが……ゼルートはシーリアスと対面するのが二回目ということもあり、特に緊張していなかった。


「久しぶりにこっちに戻ってきたわね」


「そう、ですね……まぁまぁ久しぶりかと」


少し前まではドーウルスを拠点として動いていたが、現在はとりあえず国内を自由に冒険しようというスタンスで活動中。


「それはそうと……あなた、別の街でも随分暴れてるらしいじゃない」


「…………??? いや、別に暴れてませんよ」


シーリアスが嘘を言っているとも思えないが、それでもゼルートはドーウルス以外の街でそこまで暴れた記憶はない。


(王都では姉さんを狙ったアホ坊ちゃんに、雇われた盗賊を脅して逆に潰したけど……多分、それのことを言ってる訳じゃないよな)


色恋絡みでそんな事件も起きたが、シーリアスはその事については知らない。

仮にその件を知ったとしても「それはしょうがないわね」と言って暴れたと表現はしない。


「何言ってるのよ。初日にBランクのパーティーと衝突し、別の日にとあるレストランで銀獅子の皇と衝突しかけたって話はきっちり私の耳に届いてるわよ」


「あぁ~~~~、それのことですか」


シーリアスに内容を伝えられ、ようやくどれの事を言っているのか理解した。


(その二つの事を言ってたのか……まぁ、確かに暴れたという表現は間違ってないかもな。そういえば、結局あのBランクのパーティーの……韋駄天のベーザルだったっけ? あいつらが報復しに来ることはなかったな)


もしかしたら、どこかで自分たちに恥をかかされた礼をしに来るかもしれない。

そう思ってたいが、韋駄天のベーザルを含めた四人がゼルートたちの元にやって来ることは一度もなかった。


(俺に絡んできた理由も、下層に潜るのは危ないと思って声を掛けてたんだよな……それを考えれば、恥をかかされたからといって、街中かダンジョンで襲いに来るようなアウトな連中ではないか)


韋駄天のベーザルがどういった人物なのかを思い出し、自分たちを襲ってこなかった結果に納得。


「向こうのギルドマスターはあなたと銀獅子の皇が衝突しかけたと聞いて、心臓が止まるかと思ったらしいわ」


「それは……でも、喧嘩を売ってきたのは向こうからですよ」


問題を一番最初まで掘り下げたとしても、銀獅子の皇側が悪い。

それは何をどう言われようとも、意見が変わることはなく、ゼルートはアレナが悪いとは一ミリも思っていない。


「それに、実際のところ向こうも俺と衝突するつもりはありませんでしたよ」


「そういう問題じゃないのよ……自分のところでそんなことが起きたら、誰だって頭を悩ませてしまうのよ」


シーリアスは同じギルドマスターの苦労が解るので、ゼルート側に非がなくともあまり面倒な人物との衝突は避けてほしいと、個人的に思ってしまう。

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