少年期[725]知らなかったのはミスかも
「こちらがギルドマスターのお部屋になります」
「ありがとうございます」
新人受付嬢に変わり、ゼルートを対応した先輩受付嬢は失礼のない態度でスピーディーに対応し、ゼルートを即座にギルドマスターの部屋へと案内した。
「……ふぅーーーー」
案内を終えた受付嬢は大きな一仕事を終えた様な表情で息を吐き、達成感を噛み締めていた。
「あ、あの。先輩……私、何か良くないことでもしましたか」
新人受付嬢は一階に戻ってきた先輩受付嬢に恐る恐る尋ねた。
自分が何かミスをしてしまったから先輩が慌てて間に入り、代わりに対応したのではないか。
やらかしてしまったと思い込んでしまっている新人受付嬢はプルプルと小鹿の様に震えていた。
「あぁーーー……いや、そこまで気にする必要はないよ」
ミスと言えばミスかもしれないが、それでも新人受付嬢は盛大にやらかしてはいない。
パッと見、ゼルートが怒っている様には思えなかった。
ただ、それでも受付嬢として軽いプロフィールを知っておかなければならない冒険者。
そういった意味では軽いミスをしたと言える。
「けど、あの冒険者のことは覚えておきなさい」
「は、はい。分かりました!! で、でも……そんなに凄い方なのですか? その、私は正直先輩があんなに焦る冒険者に思えなかったので」
「……そう思ってしまうのも仕方ないわね。でもね、あの人は特別なのよ」
新人受付嬢から見て、ゼルートは冒険者になりたての子供。その印象が強い。
ぶっちゃけなところ、Dランクのギルドカードを持っていることにすら驚いた。
ただ、Dランクの冒険者が気軽にギルドマスターに会うことは出来ない。
そしてアポすら取っていないので、当日いきなり会わせろと言われて合わせるのは難しい。
新人受付嬢の対応は、マニュアルを考えれば決して間違っていない。
寧ろ百点満点の対応と言えるだろう。
ここでゼルートを見下す様な感情が滲み出る表情で対応すれば、大幅に減点なのだがそんな愚かな真似をせず、丁寧に対応した。
「特別……も、もしかして貴族の令息、なんですか!?」
もしそうなら、自分は打ち首になってしまうのでは!?
そんな妄想をする新人受付嬢だが、ゼルートが貴族の令息という点は間違っていない。
しかしゼルートは屑以外には立場を利用してどうこうするつもりはない。
「そういえば……確かにあの人は貴族の令息だったわね。でも安心しなさい、だからって何かする様な人じゃないから」
「よ、良かったです~~~~」
「けど、ゼルートさんに絡んだ冒険者は身ぐるみはがされたり、貴族であっても自分に絡んできた相手には容赦しないらしいけどね」
「えっ!? そ、それって大丈夫、なんですか」
「あぁして五体満足で元気っぽいし、大丈夫なんでしょ」
ゼルートが貴族を相手に容赦せず反撃した様子は見たことないが、先輩受付嬢はまだ本当にゼルートが冒険者になったばかりの頃にドウガンという冒険者と決闘することになり、赤子の手をひねるようにあっさり倒す光景を観たことがある。
(あれは本当に衝撃だったわ)
ゼルートがオークキングを倒した話や、その他の武勇伝が耳に入った時も疑うことはなかった。
最近ではSランクの魔物で、悪獣を一人で倒したというニュースが新しい。
「あの人の情報を軽く説明すると、オークキングを一人で倒す戦力を持ってるの」
「……せ、先輩。それは、冗談ではなく?」
「えぇ、勿論冗談じゃないわよ」
オークキングを一人で倒した。
そしてゼルートという名前の冒険者……この二つが新人受付嬢の頭の中で結びついた。
「あ、あの子供が……いえ、あの人が噂のぜ、ゼルートさんなんですね」
「あら、もう説明はいらなさそうね。あの人が正真正銘、噂のゼルートさんよ。一番新しい話題だと、悪獣を一人で倒した話ね」
「ひ、ひぇ~~~……せ、先輩。私こ、殺されたりし、しませんよね」
「安心しなさい。そんな野蛮な人じゃないから……多分」
ゼルートが根は優しい冒険者と知っている先輩受付嬢は、ゼルートがよっぽどの理由がない限り、受付嬢を虐めるようなことはしないと分かっている。
だが、目の前で怯える後輩の気持ちは分からなくもなかった。
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