少年期[722]ストーカーの気持ちが解る
「ふふ、確かにゼルートにとってはあまり嬉しくない未来かもしれないな。しかし俺は絶対……とは言えないが、九割ぐらいの確率でその未来が来ると思っているぞ」
「九割って中々の確率じゃないか……はぁ~~~~。そんな未来が来ないことを祈るばかりだな」
ゼルートは今も……これから先も自由に生きたい。
誰かを取り纏める役職などに就きたくない。
「まぁ、絶対にクランをつくらなければならない、という訳ではない。クランをつくるつくらないは個人の自由だからな」
「そうだよな! わざわざ望まれていようと、つくる必要なんてないんだよ! すみません、もう一杯似た感じのカクテルをお願いします」
「かしこまりました」
グラスが空になったゼルートはバーテンダーにカクテルを追加注文した。
酒はまだまだ自分には早いと思っていたが、呑んでみると今のところカクテルは美味しいと自信を持って言える。
「なんだ、もう酔ったのか?」
「ん~~~~~……いや、まだ酔ってないと思う」
酔い潰れるまで呑んだことはなく、日頃からエールを浴びるように呑むこともない。
自分がどれほど呑めば酔い潰れてしまうのか分からないが、まだ大丈夫だと断言出来た。
「そうか。どれだけ吞めるかで強さが決まったりはしないが、Sランクの魔物を倒す様な冒険者がカクテル一杯で潰れる様だとカッコが付かないぞ」
「確かに強さと関係無いけど……うん、ちょっとカッコ悪いな」
酒自身に興味はあるので、できればそれなりにアルコール耐性があってほしいと願う。
「勿論強制ではないが、しつこく望まれると思うぞ。お前の役に立つことが夢なんです、生き甲斐なんです!! なんて言う奴が現れるかもしれない」
「…………」
アルゼルガの言葉を聞いたゼルートは何とも言えない苦い顔になった。
「はっはっは! ゼルートもそんな顔をするんだな」
「アルゼルガの言葉を聞いたからこんな顔になったんだよ」
「それはそうだな。しかし、実際問題としてそういった考えを持つ冒険者いるぞ」
狂信者、と呼ばれる様な者も稀に現れる。
銀獅子の皇にもそういった考えを持つ者が加入した例はある。
ゼルートの前世で例えれば、クランに入れば推しの為に働ける、役に立てる、サポート出来る!!!
といったチャンスがあるので、ちょっと行き過ぎた思考を持つ者は行動を自制しない。
「……頼むから自分の為に使ってくれ。仮に俺に対してそんな考えを持ってるやつがいるなら、速攻で俺はそう返す」
「ふっ、それが正しい判断だろう」
「国内を回るのは勿論、他国で旅もしたいし……ゆくゆくは別の大陸にも行きたい」
「別の大陸、か……夢のある話だな」
クランに所属し、拠点を持っているアルゼルガからすればゼルートの今後の冒険予定は、とても眩しい内容だった。
「だからさ、クランとかつくったらそんな自由に活動的ないだろ。俺の為にって思うなら、その気持ちを消してくれって頼むな」
「それはまた随分と酷な事を頼むな。しかし自由に冒険したいのであれば付き纏って来る連中などは、当然邪魔か」
「……そうだな。言葉は悪いけど、邪魔になる」
ゼルートのパーティーは戦力だけなら軍隊並みに揃っている。
そしてゼルートが料理やポーションの補充なども出来るので、冒険を行う上で必要な人材というのはない。
金も超余裕があるので、パトロンすらいらないのだ。
「まぁ……あれだな、そんなに役に立ちたいって思ってるなら俺の実家に行って警備兵にでもなってくれ……それしか思い浮かばないな」
「そういえば貴族の令息だったな……悪くない返しじゃないか? 実家としてもいざという時の戦力が増えるのは悪くないだろ」
「本当にしつこかったら、そう返すのもありか」
それでも、やはり自分に妄信的な人物はほしくない……というよりも、怖いという思いが強かった。
恐ろしいと感じる話はそこで終わり、オーラスの時とは違って少しライトな話をしながらアルゼルガとの会話を楽しみ、カクテルを味わった。
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