少年期[720]金はいらない

「ゼルート……あんた、またとんでもない物を造ったわね」


「ん~~~~……まぁ、それは否定出来ないな」


アレナにそう言われずとも、とんでもない物を造ってしまった自覚はある。

ただ、その自覚はあっても全く後悔はしていない。


「でもよ、俺としてはかなりの上出来とも言える作品だと思うんだけど……そこら辺はどうよ」


「私は是非ともこの二体と……できればこっちの腕が六本ある騎士と戦いたいな」


ルウナはアレナと違い、目の前に立っている二体の錬金獣に対してキラキラとした子供の様な目を向けていた。

ルウナもゼルートが造りだした錬金獣という兵器とも呼べる物が、どれだけ恐ろしい性能を秘めているのか知っている。


ゼルートから過去に造った初めての錬金獣がDランクの魔物の群れを倒し、最終的にはCランクの魔物をソロで倒してしまった。


(ルウナはお気楽ね……いえ、言葉に出してる部分は確かに本音なのでしょうけど、ゼルートが造ったこの二体がどれだけ恐ろしい存在なのか、解っていない筈がない)


錬金獣自体に魂、命はないので圧は感じない……そう、生物的な圧は感じない筈なのだが、造る上で使われた魔物の素材からある程度の強さが伝わってくる。


「ふっふっふ、今度自分用に造ってみようと思ってるから、そっちと戦うのは良いぞ。こっちは姉さんの為の錬金獣だからな」


「おっ、同じ様な錬金獣を造るのか……ふふ、それは楽しみだな」


本音を零しただけで、実際に目の前のレイリア用に造られた錬金獣と戦えるとは全く思っていなかった。


「……ゼルート、錬金術はあなたの趣味だからあまり口を出したくないけど、ほどほどにした方が良いわよ」


「それは分かってるって。別に俺専用の軍隊が欲しい訳じゃないから」


ゼルートの総魔力量は一級魔法使いと比べても比にならない。

なので、魔力が切れて動かなくなった錬金獣に直ぐ魔力を流し込み、戦線復帰させることが可能。


(ゼルートの場合、自分で魔力回復のポーションを造れる。加えて、空間魔法で魔力が切れた錬金獣を自分の元に一瞬で持ってきて……本当にゼルート一人の手で小国の軍隊となら渡り合えそうね)


ゼルートが国の軍隊にも負けない力を持っているのは十分承知していた。

だが、ゼルートが持つ手札を有効活用すれば、本人が前に出ずとも軍隊と渡り合えしまう……そんな事実を再確認させられた。


「そうよね。あなたは他人に戦闘を任せるよりも、自分で戦いたい派の人よね」


「おう。あんまりにも敵が弱いならあれだけど、基本的には前に出て戦う方が良いだろ」


「……良いか悪いかの話は置いといて、その二つはお兄さんとお姉さんに渡すのでしょ」


「勿論だ」


「それならあなた宛てに是非錬金獣を造ってほしいという手紙がたくさん届くと思うのだけど……それに関してはどうするつもりなの?」


「あ~~~……はは、どうしようかな」


二人に最高の錬金獣を渡す。

それしか考えていなかったゼルートは、その後のことを全く考えていなかった。


そんなリーダーを見てアレナはがっくりと肩を落とし、ルウナはゼルートらしいと思いながら笑った。


「ゼルート……もう少しその辺りはしっかりと考えなさいよ」


「分かってる分かってる。その事に関してちょっとだけ考えてたよ。こいつが世の中に出回ったら俺たち冒険者や兵士、騎士たちの仕事がなくなっちゃうかもしれないからな」


登録された持ち主の魔力量によって稼働できる時間は限られるが、それでも有能なマジックアイテムであることに変わりはない。


「……今のところ俺の気持ちが動きそうな報酬を用意出来た人か、俺たちが行く先々で俺らの望みを叶えてくれた人物には……一体ぐらい造っても良いかなって感じだ。ちなみに報酬として金はいらない。自分たちで稼げるからな」


「そういう感じにするのね。それなら……まぁ、大丈夫そうね」


目的の錬金獣を造り終えたところで、ゼルートたちは翌日には早速実家に向かって出発した。

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