少年期[710]顔も広まり始めている
銀獅子の皇のクランリーダー、オーラスに手紙を返した翌日には返事が返ってきた。
朝食はいつも通り宿で食べたが、昼食はオーラスが手紙に記した場所で食べることになった。
ただ、その指定された店に行くのはゼルートのみ。
「ゼルート、私が言うのもあれだけどあまり揉めないようにね」
「私は遠慮くなぶっ飛ばしても良いと思うぞ!!!!」
「ちょ、ゼルートをその気にさせないの!!」
アレナはいつも通りゼルートが相手と喧嘩に発展して厄介事にならないか心配しているが、アレナは寧ろ後でそんな話が聞きたいと思っていた。
「安心してくれ。特に喧嘩をするつもりはないから」
先日あった時は流れ的に引く様な状況ではなかったので、一触即発状態になったが、そんな流れはゼルートも望んではいない。
アレナたちと別れてからゼルートは一人で手紙に記された場所へと向かい始めた。
「相変わらずダンジョンを管理してる街は賑やかだな」
十三歳にしてはそれなりに街や村を見てきたゼルートだが、それでもダンジョンを管理している場所は栄えており、賑やか。
その印象は間違いなかった。
(そういえば、セフィーレさんと潜ったダンジョンの中に気になる場所があったんだよな……戦争が終わったら、そこに行ってみるのもありか)
戦争が終わってからの予定は特に無いので、一度行った場所に行くのもあり。
そんなことを考えていると、ゼルートの周囲は段々と煌びやかな建物が多くなってきた。
「……まさかとは思うが、ドレスコードが必要な店なのか?」
通り過ぎる人たちの品が上がっているのを感じ、自分の服装を思い返す。
(ど、どう考えてもこういった場所に来るのに、相応しい服装じゃない気がするんだが)
手紙には宿からの道順しか書かれておらず、店周辺がそういった場所ということはゼルートの頭に入っていなかった。
(……巡回してる兵士の人に止められるようなことはないし、この辺りを歩く分には問題無いようだな)
ゼルートにチラチラと視線を向ける者はいるが、誰も話しかけようとしたり絡もうとする者はいない。
本人はその理由を全く知らないが、ゼルートはこの街でかなり名前と顔が知られるようになっていた。
ゼルートという名前自体はダンジョンの中からモンスターが溢れ出した際に、大量の魔物を殲滅。
そして悪獣というSランクの魔物をソロで倒したという功績のお陰で、一気に名が広まった。
ただ、その容姿だけは尾ひれ背びれ付いて広がってしまい、正確な容姿を知っている者は少なかった。
しかしこの街に来てから仲間と一緒に他の同業者と比べて圧倒的なスピードでダンジョンを攻略し、ついには六十層のボスを倒した。
そのパーティーのリーダーがゼルート……正真正銘、悪獣を倒した人物ということで、まだ年齢は子供と呼べるもの。
だが、ゴブリンの皮を被ったドラゴンの実力を持つような存在だという話が徐々に広まった。
実際にその戦いぶりを見ていない者は銀獅子の皇のルーキーたちの様に、子供がそんなあり得ない実力を持つ訳がないと疑っている者も多いが、実績は出しているので触らぬ神に祟りなしと認識している者もちらほらといる。
「ここ、か……はぁ~~~~、今更どうこうしても遅いか」
一応そういった場に行くのに相応しい服は王都に行った際に購入しているが、着替える場所がない。
呼吸を整え、店の中に入った。
すると、ゼルートを発見した店員がすぐさまやって来た。
勿論傲慢な顔はしておらず、ニコニコとビジネススマイルを浮かべている。
「いらっしゃいませ。お客様、お手数ですがギルドカードを拝見してもよろしいでしょうか」
「あ、はい」
言われた通りにギルドカードを渡すと、店員はランクと名前の部分を即座に確認。
そして直ぐにギルドカードを返し、腰を九十度に折る。
「お待ちしておりました、ゼルート様。こちらへどうぞ」
「分かりました」
ひとまず服装に関して、どうこう言われることなく部屋へと通された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます