少年期[693]気になる中身

「……そうね、確かにゼルートのスピードを考えると、そういう結論に至ってしまうのも仕方ないわよね」


アレナはそういうが、同じく自身の脚力に自信があるルウナはゼルートと同じく自信満々に、食らわなければ良いとは断言出来なかった。


勿論、ルウナの脚が世間一般的にみて遅いというわけではない。

しかしキングヴェノムサーペントの毒がどれだけ恐ろしい物なのかは知ってるゆえに、万が一の可能性を考えるとゼルートほど自信をもって、避ければ問題無いと言えなかった。


「ゼルートには疾風迅雷があるものね」


「ふふ、良いだろ!」


疾風迅雷はゼルートにとって十八番ともいえる技。

それに加えて、自身に枷を付けている重りを外せば、重さから解放されて更に強化。


確かにキングヴェノムサーペントの毒は強力であり、キングヴェノムサーペントの身体能力も恐ろしい。

だが、やはり本気で殺りあった悪獣の力と比べれば、当たり前だが見劣りしてしまうのは必然。


「でも、十回戦までいけば……あんまり余裕で戦えるような奴らだけじゃないだろうな」


既に化け物クラスの実力を持っているゼルートにとって、Aランクの魔物は楽しい実戦相手。

確かにキングヴェノムサーペントの毒を食らえば、ゼルートでもかなりヤバいが戦いの最中に死ぬかもしれないという危機感は感じない。


「……普通は十回戦まで行けば、悪獣レベルの化け物が出る筈よ」


「マジか!? いや、普通に考えればそうなるか……それは、あれだな。倒した後に手に入る宝箱のレベルが期待出来るな」


「そ、そうね……間違ってはいないけど、そんなに目をキラキラさせて言うようなことじゃないわよ」


超一級の実力を持つパーティーであっても、コロシアムが十回戦まで続けば絶望するのは間違いない。

戦闘大好き獣人であるルウナも、一人でそんな魔境に挑みたいとは思わない。


(……私だけの力では、せいぜいに成長した二体のサイクロプス……もしかしたらミノタウロス亜種まで行けるか?

仮にそこまで行けたとしても、ミノタウロス亜種の後に現れるキングヴェノムサーペントは厳しいだろうな)


実戦大好きであったとしても、冷静な頭は持っているので自分がどこまで戦えるかは見極められる。

並ぼうと思い続けている場所はまだまだ遠いと感じながらも、ルウナの闘志はメラメラと燃えていた。


「でもそうよね……コロシアムをクリアしたということは、七回戦まで倒した分の報酬を手に入れたのよね。中身はもう見たの?」


コロシアムの七回戦を乗り越えた果てに得られる宝箱。

アレナだけではなく、ゼルートたちの会話に耳を傾けていた同業者たちも興味津々だった。


「いや、まだ見てないぞ。今回の目的はエボルサーペントだったからな」


「あらそうなのね」


ゼルートがまだ宝箱の中身を確認してないと知り、多くの者が肩を落とした。

しかし、直ぐにまた気になる言葉が零れる。


「なぁ、ゼルート。さっきと似た様なことを聞くが、エボルサーペントとキングヴェノムサーペント、どっちの方が強かった?」


Aランクの魔物である超猛毒を操る大蛇、キングヴェノムサーペント。

片やBランクではあるが、驚異的なまでのスピードで成長する雷の大蛇、エボルサーペント。


キングヴェノムサーペントは言わずもがな、とんでもなく恐ろしい毒を持ち、素の強さも脅威。

だが、ホーリーパレスをメインに活動する冒険者であれば、エボルサーペントがどれだけ恐ろしい魔物なのか……知らないの者は殆どいない。


「ど、どっちだろうな? キングヴェノムサーペントとエボルサーペントとだと強さを比べる土台が違うから、一概にどっちが強いとは言えないな」


あっさりと出た中途半端な答えを聞き、周囲の者は肩を落とす……ことはなく、なるほどと納得した。

強力な猛毒を持つ大蛇と、驚異的な速さで成長する大蛇。


比べる要素がかなり違い、そして二体ともそれなりのスペックを持っている。

故に、どちらが強いのかは決定が下しにくい。


「ふぅーー、食った食った」


全員が満腹になり、夕食を食べ終えたゼルートたちは部屋に戻って宝箱の解錠を始めた。

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