少年期[692]恐ろしいのは解ったが

「とりあえず、ミノタウロス亜種がかなり強いのは分かった。それで、次はどんな魔物が現れたんだ」


「次は……そうだ!! 俺的には次の魔物が一番厄介というか……登場する魔物の順番的に一番やらしいというか、卑怯というか……とにかくそんな感覚を覚えた」


「やらしくて卑怯……もしかして、絡め手系を使う魔物が最後の相手だったの?」


アレナは見事ゼルートが言う前に、大まかな特徴を言い当てた。


「そうなんだよ。俺的には成長したサイクロプス二体、そしてミノタウロス亜種が現れたから最後もパワーでゴリ押す系の魔物が現れるかなと思ってたんだよ」


「……そう考えてしまうのは仕方ないわね。一応そこまでコロシアムに出現した魔物は、だいたい身体能力で押すタイプが多かったのだし……それで、どんな魔物が最後に現れたの?」


「キングヴェノムサーペントだ」


コロシアムの七戦目、最後に現れた魔物の名をゼルートが口に出すと、名前が聞こえた大勢の同業者は食事の手を止め、ゼルートの方に視線を向けた。


(うぉ!!?? ちょ、皆こっち見過ぎじゃないか? さすがにそんな一気に視線を向けられるとびっくりするだろ)


聞き耳を立てていた大勢の同業者の視線を浴び、驚くもゼルートはそのまま会話を続ける。


「最後の最後に蛇系で……更に厄介な毒を盛ってる魔物が相手だぞ。ダンジョンのトラップなんだから当たり前なんだろうけど、完全にこっちを殺しにきてる登場順だったな」


「……そ、そうね」


「おい、なんでそんな引き攣った顔してるんだよ。確かにキングヴェノムサーペントは強かったけど、Aランクの魔物だぞ。悪獣みたいにSランク相当のぶっ壊れ魔物じゃないんだぞ」


そんな引き攣った表情をされるとは思っていなかったので、ゼルートとしては心外だ……と言いたいのだが、アレナがそんな表情をしてしまうにはそれなりの理由があった。


話を聞いてたルウナも、アレナの様に引き攣りはしないがミノタウロス亜種の名前が出てきた時よりも驚いた表情になっていた。


「ま、まぁそれはそうなのだけど……そうよね、ゼルートの速さがあれば問題無い相手よね」


「そうだな。疾風迅雷を使えば特に問題無く対処できる相手だな」


疾風迅雷という技が、どういった技なのか細かい部分は分からないが、脚力を強化する技なのは同業者ならおおよその予想が付く。


だが、それを使えばキングヴェノムサーペントを特に問題無く対処出来る……強化系のスキルか技を使えば問題無く倒せる……そんな相手ではない。


会話に聞き耳を立てている同業者やその他の者たちも、さすがに驚き疲れてきた。


「でもね、ゼルート。キングヴェノムサーペントはAランクの魔物なの。身体能力が高いのは知ってる……というか、実際に戦ったのだから解るでしょ」


「あぁ、解るぞ。蛇系の魔物があそこまで速く動くと攻撃が当て辛いだろうな。それに尾で叩きつけられたら地面にめり込むだろうし」


「最悪の場合、死ぬでしょうね。けど、本当に厄介なのはその毒なのよ」


「だろうな。ヴェノムサーペントなんだし、メインの武器は毒だろ」


そんなことは俺も解っているという表情になるゼルートだが、アレナやルウナはそこまで危険視してないリーダー表情を見て、やはり感覚がズレていると認識した。


「キングヴェノムサーペントの毒は解毒が難しいの。毒の中でもとびっきりに。食らえば即座に命を脅かす即効性。遅効性の毒も使えるみたいだけど、即効性の毒を食らえば地上に戻って教会に行って……なんてチンタラしてる暇はない」


「……そんなにヤバいのか」


「キングヴェノムサーペントがそう簡単に帰還石の使用を許してくれないっていう問題もあるけど、回復系の魔法が使えても相当スキルレベルが高くないと治せない。ポーションで治すにしても、同じようにランクが高い物でないと治せないの」


「つまり一撃必殺の毒ってことか」


「そういうことね。毒耐性のスキルやマジックアイテムを持っていたとしても、身体能力は大幅に下がる。吐血、麻痺状態。負の連鎖が始まるの」


「最悪な連鎖だな……でも、食らわなければ問題無いだろ」


キングヴェノムサーペントが持つ毒の恐ろしさは十分に解った。

解ったが……結局ゼルートはそういった結論に至った。

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