少年期[686]これ以上戦い続ければ……

ホーリーガルーダと戦い始めたラルは久しぶりに高揚感を覚えた。


今まで戦ってきた魔物の多くは地上戦がメインの相手ばかり。

強い魔物であっても、空中から攻撃出来る自分の方が有利。


ただ飛べるだけなら撃ち落とせば良いだけの話だが、ラルは身体能力や遠距離攻撃、下降してからの攻撃パターンも多く、仮に鳥獣系の魔物に対して有利な攻撃方法を持っていたとしても、ラルを倒すことは難しい。


だが、今回の相手は空中戦を得意とする聖属性のガルーダ。

ダンジョンのボス部屋のボスとして生まれたばかりの魔物だが、戦い方に慣れていないと感じることは一切無い。


(まるで十年以上、空中戦を行ってきたといった動きですね)


戦い始めて一分程度が経ち、そんな感想を持った。

ラルの考えは間違っておらず、ダンジョンに生まれてくる魔物は階層が深くなればなるほど、自分がどういった魔物でどのような方法で戦えば良いのか……生まれながらに理解している。


そんなホーリーガルーダとの戦いはラルにとって長い時間楽しみたいと思える内容だった。

相手がAランクという事もあり、下手に受ければ傷を負う。


もろに食らえばそれなりに大きなダメージを受ける。

ラルは属性持ちのドラゴンだが、相手も他の魔物とは一線を画す力を持つAランクの魔物。


グリフォンと同じくフェザーラッシュや硬化した翼による一閃。

そして風の魔力を纏った爪撃や攻撃魔法、ブレスの威力はグリフォンの数倍はある。


風魔法に加えて、ホーリーガルーダなので勿論聖魔法も使える。

しかし聖魔法はラルにとって相性が悪い攻撃ではなく、風魔法の様に攻撃が鋭いといった特徴はない。


勿論、攻撃する際に纏えば威力は上がるが、メインの効果は回復。

軽い攻撃が当たったとしても、ホーリーガルーダは一瞬で治癒してしまう。


(良いですね……戦い甲斐があります!!!)


聖魔法は回復だけではなく、防御面も優れている。

ホーリープロテクトを使用し、攻撃を躱せない時は複数の壁を用意してなんとか防ぐ。


それでも闘争心が更に燃え上がり始めたラルは徐々に調子を上げていき、身体強化のスキルも発動。

身体強化に関しては生まれながらにスキルが備わっていたホーリーガルーダよりも、ラルの方が上。


戦いが激化すればするほどホーリーガルーダは追い詰められていく。

負っていく傷も一瞬では治らないような傷が増え、スタミナが低下。


動きのキレが落ち始めたところで首を足で掴まれ、そのまま無理矢理地面に叩きつけられた。


「お疲れ様、ラル。ホーリーガルーダとの戦いはどうだった?」


「とても満足が出来る空中戦ができました。願うなら……もう少し戦いを楽しみたかったですが」


「ならばもう少し楽しんでいても良かったんじゃないか? まだ戦いが始まってから数分程度しか経っていない筈だ。ボス戦が早く終わることに越したことはないが、もう数分楽しんでいても良かったと私は思うが」


「ルウナの言う通りね。後数分ぐらい満足できるまで戦っていても良かったのよ」


早く終わることに越したことはない。

それはその通り。


何か作戦があって戦いを長引かせるならともかく、基本的に速く……迅速に討伐する。

それが基本。ボス戦を楽しむなど、よっぽど実力差が離れていなければ狂気の沙汰ではない。


ただ、アレナたちは必ずラルが勝つと信じていたので、このままもう数分ぐらい戦っていても文句を言うつもりは一切なかった。


「……久しぶりの強敵を相手にして、闘争心がかなり昂っていました。もう少し戦いを楽しみたいという気持ちはありましたが……あのまま続けていればただの虐殺になり、ホーリーガルーダを無惨なかたちで殺すことになったかもしれません。貴重な素材や魔石をめちゃくちゃにしてしまうのはよろしくないなと思ったので、ある程度のところで切り上げました」


「そういうことだったのね。やっぱりどんな状況でもラルは冷静よね……ルウナなら、もう数分ぐらいは絶対に楽しんでたでしょ」


「うむ、そうだな!! 絶対にもっと楽しんでいたと思う」


話を振られたルウナは恥じることなく、堂々と答えた。

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