少年期[685]うっかり潰してしまう

「やはり、力比べは良いな」


ホーリーガルーダと戦えないのは残念だと思いながらも、ラルが一番対応しやすいだろうと納得はしている。


今回自分が戦う相手は空の死神と呼ばれるグリフォン。

ランクはBであり、相手にとって不足はない。


やる気十分……そんな心境で勝負を挑み、現在ルウナは上空から下降してきたグリフォンの前足を掴み、競り合っている。


捕まえた直後は何メートルも押されてしまったが、途中から全く押されることはなく、寧ろ少しずつ押し返している。

ルウナの華奢に思える体からは考えられないパワーで爪撃を受け止め、空の死神に焦りを与えていた。


現在の状況に至るまで様々な攻撃を試したが、全てルウナの攻撃によって相殺、もしくは躱されている。

フェザーラッシュは炎狼拳で燃やし尽くされ、風のブレスは炎拳の連続パンチで迎撃。


風魔法を放っても全て破壊されてしまう。

くちばしによる死の刺突に関してはさすがのルウナも回避行動をとった。


ただ、あまり回避するのが早過ぎればグリフォンは軌道を修正して対象を貫く。

紙一重に近い形で躱さなければ、体に風穴を空けられるのは必至。


かなり集中力と反射速度がなければ行えない回避だが、それをルウナは何度もやってのけた。


(人型ではないからリビングデットやデスナイトたちと比べてやや楽しめないだろうと思っていたが、やはりBランクのモンスター……なかなかどうして楽しめるじゃないか)


自分の力と張り合うグリフォンとの攻め合いに楽しさを感じ、更に闘争心が燃え上がる。


「ッ!!!!」


前足が捕まってから何度も翼を仰ぎ、風の魔力を使って敵を圧し潰そうとするが、逆に徐々に徐々に押し返される。

あり得ない、そんなバカなと思いながらも現実を受け止め、至近距離からのブレスをぶちかます作戦に変更。


「おいおい、つれないじゃないか」


先程相殺した風のブレスが飛んでくる。

それを察知したルウナは力が緩まったグリフォンの脚から一瞬だけ手を離し、体の下に入ると直ぐに足を掴んだ。


「せやっ!!!!!」


そしてそのまま顔面を地面に叩きつける。

意識をブレスに集中していたグリフォンはルウナの速さに反応出来ず、顔面から地面に急転直下。


ルウナとしてはここでダメージを与え、腹に連撃を浴びせる予定だった。


「ッ!!!???」


「うおっ!? ……な、なに!!」


思いっきり顔面から地面に叩きつけたことにより、口の中に貯め込んでいた風のブレスが暴発。

顔面から叩きつけられたという事は、くちばしも当然地面にダイブ。


風の魔力は行き場を無くし、口の中で暴れた。

その暴発が脳や頭蓋骨まで即座に達した結果……グリフォンは顔面が地面に叩きつけられたまま動かなくなってしまった。


「……そうなるとは思っていなかったな。いや、まぁ勝ったのだから喜ぶべきなのだが……ん~~~~、あまりスカッとしない勝ち方だったな」


ルウナの予定としてはもう一分ぐらいはグリフォンと楽しいバトルを行える筈だったが、咄嗟に取った行動が一瞬で空の死神であるグリフォンを冥府に送ってしまった。


「仕方ない。次の強敵との戦いに期待しよう」


そう思った瞬間、少し離れた場所に自分が倒したグリフォンと同じ様なポーズになっているホーリーガルーダがいた。


「はっはっは!! さすがラルだ。相手がAランクのモンスターであっても完封したみたいだな」


開戦時からボス部屋の大ボスであるホーリーガルーダと戦っていたラルはルウナと同じく、久しぶりに対峙した強敵との戦いを楽しみながらもなるべく素材が傷付かない方法で倒した。


「やはり頭を砕けば死ぬようですね」


雷竜のラルとホーリーガルーダの一戦……大金を払ってでも観る価値がある戦い。

だが、最終的な内容はラルの圧勝という形で幕を閉じた。

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