少年期[678]差は歴然

「な、なぁ……坊主はなんて名前なんだ?」


「ゼルートだ」


少年の名前を聞いた瞬間、やっぱり!!! と思った者。

そしてこいつがっ!? と驚いた者に別れた。


この街ではそれなりに有名になって来たゼルートだが、冒険者の数が多いこの街ではゼルートを一度も見たことがないという冒険者は少なくない。


ダンジョン探索をメインで活動している者であれば、全くすれ違わない場合もある。


「ぼ、坊主があの……坊主から見て、コロシアムに現れた魔物たちは強かったのか?」


目の前の少年があのゼルートだと分かりながらも、ベテラン冒険者は怯えることなく会話を続ける。


「そうだなぁ……成長したサイクロプス二体と、ミノタウロス亜種。あと最後に戦ったキングヴェノムサーペントは強かったな」


「なっ!!?? そ、そんな奴らが出現したのか」


「七回戦の後半だったから、それぐらいの魔物が現れてもおかしくないだろ」


「そ、それもそうか」


現れる魔物が徐々に強くなるという内容を考えれば、後半の方に成長したサイクロプスなどが現れても何ら不思議ではない。


寧ろ、ゼルートが戦った魔物たちより弱い個体が六戦目や七戦目で現れることの方が少ない。


「なぁ、やっぱり悪獣の方が強かったのか?」


ゼルートが持つ武勇伝の中では圧倒的に悪獣を倒したという、かなり最近の話題が広まっている。

果たしてコロシアムで戦った魔物とSランクの悪獣……どちらが強いのか、冒険者でなくとも気になる話題。


「……仮に今回のコロシアムに現れた七体の魔物を一気に相手するよりも、悪獣の方が断然強かった」


「や、やっぱりそうか。なんてったってSランクだもんな」


「そうだな……実際に戦ったから言えるが、あれは本当に次元が違う魔物だった。Aランクの魔物も十分凶悪な力を持ってるし、災害と呼べるかもしれないけど……悪獣はまさしく天災だった」


自分たちよりも冒険者歴であれば圧倒的に下のゼルートだが、少年が話す内容にボス部屋に並ぶ冒険者たち全員が耳を傾けていた。


そして一つ、ゼルートの言葉を聞いて目の前の少年は自分たちとは違うステージにいるのだと、厳しい現実を思い知らされた。

中にはゼルートの実力を妬む者もおり、「悪獣をソロで倒したなんてどうして道具に頼っただけだろ!!!」と叫びたい気持ちがあった。


しかし周囲の冒険者の殆どがゼルートの話を信じているので、反論を恐れて何も言い出すことができなかった。


この後も男が一方的に質問を続け、ゼルートはそれに答えられる範囲は答える。

そんな時間を自分の番がやって来るまで切り返し、いよいよゼルートがボスに挑む番となった。


「さて、中にいるのはどんなエボルサーペントかな……」


不謹慎だということは分かっているが、強化されたエボルサーペントを望む。


「これは……えらく食い散らかしたな」


ボス部屋には冒険者の武器や防具、死体がそこら中に散乱していた。


そして中心部には返り血を浴びたエボルサーペントが次の獲物を待っていた。


「どうやら確実にワンランク進化しているみたいだな」


戦った相手がそれなりに強かったので、エボルサーペントは急激に進化を得てAランクの実力を得ていた。

本来ならこの事実に怯える……もしくは死を覚悟する者もいるが、ゼルートにとっては丁度良い獲物。


迫力で言えば、先程戦ったミノタウロスの亜種やキングヴェノムサーペントとなんら変わらない。


「お前の美味しい素材や魔石、頂くぞ!!!」


「シャアアアアアアアアッ!!!!」


そう簡単にやる筈はなく、エボルサーペントは雷を体に身に纏って応戦。

先程戦ったキングヴェノムサーペントと同じく長い胴体を使ったメインで攻撃を繰り返すが、他にも雷のブレスやライトニングボール、ランスなどを使ってゼルートを潰しに掛かる。


しかし雷属性ならゼルートも得意な属性なので、全てを相殺しながら一段階強くなったエボルサーペントとの戦闘を楽しみ、綺麗に頭を切断。


こうしてゼルートの用事は少々厄介な罠に巻き込まれたが、無事達成した。

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