少年期[679]環境が良すぎた

ゼルートが運悪く転移トラップに引っ掛かり、コロシアムで魔物と戦っている中……アレナたちは何事もなく階層を降りていた。


いや、何事もなくという表現には誤解があるだろう。

モンスターに遭遇することは多々あった。


アレナを除いて全員が戦闘大好きな者ばかりなので、遭遇した魔物とは全て戦闘を行っている。

しかし、ルウナたちもあまりチンタラしてはならないと解っており、戦いは楽しむがなるべく短時間で戦闘を終わらせる。


それを心掛けながら探索は進み、モンスターの大群に遭遇することはなく、五十一階層から六十階層の間に現れるのに相応しくない魔物と運悪く出会ってしまうことなく……アレナたちは六十階層のボス部屋に到着した。


「そろそろボス部屋ね」


「ようやくか。ここまで来るのにそこまで歯応えがある奴と遭遇しなかったからな。ボス戦は楽しみだ」


「歯応えがないって……デスナイトと戦ったでしょ」


ゼルートが錬金獣の素材として欲しがっているデスナイト。

Bランクの黒い鎧の剣士。

偶に二刀のロングソードを持つ個体もいる。


純粋な身体能力が高く、技術もあるので対人戦に優れた冒険者でなければ、戦うのは避けたい相手。

しかしそんな魔物と遭遇してもルウナは意気揚々と勝負を挑み、見事勝利した。


鎧やロングソードには所々へこみや傷はあるが、ゼルートが錬金獣に使うぶんには全く問題無い。


「あぁ、あいつか。あいつ……デスナイトは良い相手だった。久しぶりにロングソードを使って戦ったが、技術では向こうの方が上だった。身体能力でゴリ押しした感が強かった……次遭遇する時はもう少し剣だけで渡り合えないとな」


「……そう、頑張ってちょうだい。ゲイルたちもやっぱり不満だったの?」


「遭遇する魔物を全てと戦ったので、そこまでは……ただ、やはりAランクの魔物と戦う方が心が躍ると感じました」


「私もゲイルさんと同じですね。五十一階層から六十階層では偶にAランクの魔物が現れると聞いていたので期待していたのですが、今回は外れだったようですね」


「ん~~~、僕は結構楽しかったかな。多くの魔物と戦ってる時が一番楽しいかもしれない!! 勿論、Aランクとか単体で強い魔物と戦う時も楽しいんだけどね」


ラームは意外にも頭を使って複数の敵と戦う感覚を気に入っていた。


逆にラルとゲイルはそういった状況の戦闘も好きだが、個人でずば抜けた力を持つ魔物との戦いを求めている。


「皆本当に戦うのが好きねぇ~~~」


「アレナだってなんだかんだ、魔物と戦っている時がストレスも発散できて楽しいだろ」


「……一応強くなってるのと、状況のお陰で多少はそう感じてるのは事実ね」


ゼルートに買われてから現在に至るまで、強敵と戦う機会が多かった。

そのお陰で奴隷になる前よりも確実にレベルアップし、武器の質も向上。


周りには頼りになり過ぎる仲間もいるので、以前ほど魔物と戦うのに死の恐怖を感じていない。


(本来なら冒険者として良くない感覚なのだけど……仕方ないわよね)


もう少し強敵と遭遇したら、死ぬかもしれないという可能性を考えながら戦わなければならない。

だが、現在ゼルート抜きで探索しているが、それでも大抵の魔物と戦っても負ける気がしないのも事実。


「強くなって、環境が良すぎるのも問題ね……そういえば、今回は何がボスとして出現すると思う?」


「前回はホーリーミノタウロスだったな……私としてはホーリードラゴンでもありだな」


「ドラゴン狩りをしたいのね。冒険者ならドラゴンスレイヤーの称号は憧れるものね」


「アレナは持ってないのか?」


「パーティーとしての称号は持ってるけど、個人でドラゴンをスレイしたことはないのよ」


奴隷となる前はAランクの冒険者だったが、その時は一人でドラゴンに挑もうと思わなかった。


今でもそんな無謀なことはしたくないと思っているが、ワイバーンぐらいなら余裕で行けるだろうと確信している。

ただ、ワイバーンを一人で倒してもドラゴンスレイヤーの称号を得られるかは微妙なところ。


「あれ、あの人って確か……」


話しているうちにボス部屋の前に到着。

そこには以前ゼルートたちと少々揉めたクラン、銀獅子の皇に所属するアルゼルガが仲間と一緒に順番を待っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る