少年期[656]幾つ消し飛ぶか……予測不能

「セイクリッドドラゴンか……冒険者を引退するまでに、一回ぐらいは戦って倒したいな」


「引退するまでに、ねぇ……そうね、一回ぐらいは遭遇してみたいかもね」


「あっ、半端なく強い相手に珍しく強気な反応じゃん。闘争心が疼いてきた?」


「今すぐというのは少し遠慮したいけど、引退するまでって考えると一度ぐらいはそんな強敵と戦うのもありかと思っただけよ」


あまりに理不尽な状況は遠慮したい。

だが、ゼルートと一緒に行動しているお陰で多少なりとも強くなっている自覚はある。


(同時に強敵に対しての感覚も麻痺してそうだけど)


強敵に対しての恐怖心も克服しつつあり、このままいけば冒険者としてのAランクという壁を超えられるかもしれない。


どんな感覚が自分の中にあり、今回の探索で一段とその想いは強くなっていた。


「同じドラゴンとしては、是非とも一対一で戦いたいですね」


対象が同じドラゴンということもあり、こちらも珍しくラルが闘争心をギラギラと燃やしていた。

遠目でラルを見ていた者が炎を纏っていると錯覚するほどやる気が溢れており、ゼルートは少し落ち着けと伝えた。


「もしそんな魔物と戦えたらテンションが上がるのは分かったから、ちょっと落ち着け。周りの奴らがビビっちまうだろ」


「おっと、そうでしたね。少々闘気が漏れ過ぎました」


今のラルは人型。可憐な少女。


そんな少女にビビったと言われた冒険者は即座に反論したかったが、ビビったのは事実。

高ランクの冒険者として自身の感覚を嘘で誤魔化し、見栄を張ろうと思った者はこの場にいなかった。


「ラルとセイクリッドドラゴンがタイマンでバトルか……山が幾つ消し飛ぶだろうな」


「普通なら笑い飛ばすところだけど、その考えは否定出来ないわね……小さい山なら五つぐらいは吹き飛びそうじゃない?」


「それぐらいはぶっ壊しそうだな。ラルはどうなると思う……実際にセイクリッドドラゴンと戦った時の周囲に及ぶ被害は」


悪意を持って訊いていない。

ただラルとセイクリッドドラゴンが本気で殺し合えば、両者がどれだけ周囲への被害を抑えようとしても、大地が抉れて森が吹き飛ぶのは確定。


「セイクリッドドラゴンは回復能力が高そうですので、良い一撃を入れられなければ長期戦になりそうなので……小さな山が十個ぐらいは吹き飛ぶかもしれませんね」


「十個……はっはっは、分かってたけどヤバいな。でも相手の回復能力が高かったら必然的にそうなるもんか……まぁ、本当にそんなやつと出会ったときは俺たちが勝つだろ」


離れた場所でゼルートの声を聞いていた冒険者からは小さな笑い声が聞こえた。


セイクリッドドラゴンは出現が確認されたら、国や主要都市が力を合わせて滅ぼす存在。

そんな存在を倒すなんて、ガキが調子に乗り過ぎた。


なんて思って笑った者がいたが、ゲイルやルウナから本気の殺気を向けられて直ぐに視線を明後日の方に向けた。


(……銀獅子の皇とちょっと絡んだから、名が少しずつ売れてきたみたいだけど、まだまだ悪獣を倒したって話を信じてる人は少なさそうだな……まっ、下手に絡んで来なければそれで良いんだけどな)


自身を笑った奴らに何かしようとは思わない。

勿論、喧嘩を吹っかけて来たらダンジョン内であろうと関係無しにボコボコにして装備を頂く。


寧ろダンジョンの中だからこそ頂く。

そんないつも通りのことを考えていると、ようやくゼルートたちの番が回ってきた。


「おっ、ようやく私たちの番だな。どんな魔物が相手なのか……考えただけでワクワクしてきたぞ」


「ふふ、私も武者震いが止まりませんね」


「二人とも仲にいるのはAランクの魔物よ。全力中の本気を出せば本当に直ぐ終わるの忘れてない?」


ゼルートがボス戦に参加せずとも、残りの五人が本気を出せばAランクなど敵ではない。

それが解っていても、好戦組のテンションは全く下がらない。


「テンションが高いのは良いことだ。それじゃ……いくぞ」


目的の聖魔石を手に入れるため、ゼルートたちは緊張感を感じさせない足取りでボス部屋に入った。

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